あの日を境に、わたしの時間は…− 柳美里
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あの日を境に、わたしの時間は「進む」ことができなくなりました。「進む」のではなく、「退いて」いるように感じられるのです。
カレンダーのような時間の枠は、もう組み立てられないのではないか――。
時計のような時間の密度は、もう保てないのではないか――。
地震と津波によって時間の枠組みが瓦礫となり、放射能によって時間の密度が侵食されつづけている今――、どのようにして時間を進めればいいのか――、わたしは、今、考えています。
リュウ・ミリ●作家
1968年生まれ。神奈川県出身。鎌倉市在住。1993年、「魚の祭」で第37回岸田戯曲賞受賞。1997年、「家族シネマ」で第116回芥川賞受賞。2008年10月、朝鮮民主主義人民共和国を訪問。近著に「ファミリー・シークレット」がある。