『夜と霧』の中の言葉が蘇りました− 柳美里
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五月半ばの十日間、ドイツとオーストリアの五都市で『ゴールドラッシュ』の朗読会を行いました。
最終日の五月十九日、ハンブルグのダムター駅に到着したのは二時過ぎでした。ホテルにチェックインして、お化粧して、着替えて、四時にハンブルグ大学――、と頭のなかで十分刻みの時間割を組み立てながら、わたしは執筆の資料本と大学関係者に献本する自著を詰め込んだ為に二十キロ越えの超過料金をとられたトランクを押し、十キロの登山リュックを背負って、ホテルを目指して歩きました。
全ての日程に同行し、ドイツ語の朗読をしてくれた翻訳者の岩田クリスティーナさんは軽装でした。
リュウ・ミリ●作家
1968年生まれ。神奈川県出身。鎌倉市在住。1993年、「魚の祭」で第37回岸田戯曲賞受賞。1997年、「家族シネマ」で第116回芥川賞受賞。2008年10月、朝鮮民主主義人民共和国を訪問。近著に「ファミリー・シークレット」がある。