埼玉県東松山市・大松屋
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東松山名物「やきとり」の元祖 カシラ肉は味噌ダレで
暖簾をくぐると立ち込める煙の中から店主・黒瀬タツ子さん(80)と娘の裵政姫さん(58)が、「いらっしゃい!」と元気に迎えてくれる。カウンター席に並べられた丸イスに腰を下ろすと、黒瀬さんが「さぁ食べてみて」と、看板商品であるカシラをお皿にもってくれた。ホーロー缶にたっぷり入った味噌ダレをつけていただくのが東松山流、さっぱりとした食感は新鮮な素材がなせる技だろう、ネギの甘みも広がり、いくらでもいただけそうだ。
素材は豚だが、当初から「やきとり」と呼ばれている。黒瀬さんの夫・裵相九さん(故人)が、カシラと呼ばれる豚の頬とこめかみを串に刺して売り始めたのは1956年のことだ。当時カシラ肉は、ホルモンなどと同様に食肉として使われていなかったが、裵さんは近くの食肉センターから安価で新鮮なカシラ肉を手に入れ、商売を始めた。当時は一斗缶に豚の頭を詰め込んで、自転車で運んでいた。「自転車が倒れて缶から豚の頭が道に転がり、周りが目を丸くするなか、必死で拾ったという話も聞きました」と次女の政姫さんは笑う。慶尚北道から19歳で日本に「徴用」された裵さん、トウガラシ、ニンニクを使った「秘伝のタレ」を学びに訪れる人を広く受け入れ、焼鳥組合も立ち上げるなど、リーダーとして地元の活性化に貢献した。今や東松山には50を超える焼鳥店があり、地元の名物となっている。
創業以来、伴侶として店を守り続けてきたのが黒瀬さんだ。家族連れに、中年男性、会社仲間でにぎわう店内では、肉をあぶり続ける黒瀬さんが、顔なじみの客と自然な笑みを交わしていた。老舗の風格漂う名店だ。
〒355-0016 埼玉県東松山市材木町23-14
tel 0493(22)2407
営業時間:16:00~20:00(品切れたら閉店)
定休日:日曜日