TPP交渉への参加は人々を豊かにするのだろうか― 自由貿易の利益と不利益
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康明逸●朝鮮大学校経営学部助教
本連載の最終回となる今回は、日本政府が今年3月に交渉参加を表明した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を考えるために、自由貿易にまつわる経済学的知見についていくつかのべたいと思う。
国際分業の在り方を考えるとき、単純に、他国よりも生産性の高い財に特化すれば、貿易による利得を最大化できると考えがちである。しかし現実には、産業技術水準が高くあらゆる財の生産性で優位(「絶対優位」)に立つ国と、そうでない(「絶対劣位」にある)国との間にも、分業に基づいた貿易が成立する。これは、同一産業同士の生産性比較のみでは国際貿易のメカニズムを解明し得ないことを意味する。
経済学では、ある産業の同国内他産業に対する相対的な生産性を国家間で比較し、そこで優位(「比較優位」・キーワード参照)に立つ産業に資源を集中することで、貿易のない閉鎖経済よりも多くの富を獲得できると主張する。この場合、全ての産業で国際的に絶対劣位に甘んじている国であろうと、比較優位にある産業を見つけ特化することで、貿易による利益を享受できる。