【特別企画】もうひとつの世界遺産を歩く
広告
日本の歴史修正・歪曲の動きが止まらない。アジア諸国を侵略した過去の国家犯罪が厳然としてあるにもかかわらず、教科書から記述を消し、それらを伝え反省しようという碑や説明板などを撤去する動きが相次いでいる。今回の「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を巡る動きも同じ脈絡にある。朝鮮人強制労働などの事実を覆い隠したまま登録しようという日本政府の動きに世界から非難が相次いだ。世界遺産に登録された施設を巡り日本の国家犯罪を明らかにするとともに、周辺に点在する慰霊碑などを紹介する。
隠すことのできない日本の国家犯罪
世界遺産登録地と強制労働跡地を巡る
7月5日、ドイツで開かれたユネスコの世界遺産委員会で、日本の「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録された。「明治日本の産業革命遺産」は23施設で構成されているが、朝鮮人の強制労働があったとされるのは7施設とされている。今回、登録された施設の中から九州を中心にいくつかを巡った。現地には、強制連行・強制労働の傷跡を示す場所や関連施設も多い。今後、「観光地」として開発されるであろう登録施設だが、日本の国家犯罪を告発する場所も同時に回ってもらいたい。
①福岡 八幡製鉄所
鉄の生産で日本の侵略を支えた
下関は強制連行の玄関口で、福岡には門司の軍港、小倉の軍司令部という軍施設、そして筑豊や大牟田に炭鉱が広がっていた。採掘された石炭が集められたのが八幡製鉄所(現、新日鐡住金株式会社)で、日本が大陸へと侵略していく時には、石炭から作られた鉄は兵器となって日本の侵略を支えた。
②長崎 端島炭坑(軍艦島)
長崎市内に点在する被害の跡
端島=軍艦島の炭鉱は三菱鉱業所端島炭鉱と言い1870年に開かれた。ここでは約500人の朝鮮人が過酷な状況で働かされた。1965年に、故・岡正治さんらによって結成された長崎在日朝鮮人の人権を守る会(以下、守る会)が原爆被害や強制連行・強制労働とともに軍艦島での強制労働の調査も進めてきた結果、明らかにされたものだ。
③福岡・熊本 三井三池炭鉱
朝鮮人、中国人、囚人などを酷使
今回の世界遺産巡りのメインとなったのは、福岡県大牟田市である。大牟田市と県境の熊本県荒尾市には日本でも有数の炭鉱であった三井三池炭鉱跡が広がっている。ここで世界遺産に登録された施設は、三井三池炭鉱の宮原坑、万田坑、三池港閘門などだ。
明治の産業革命遺産は 「歴史の事実」に向き合え
内岡貞雄 ●炭鉱の水非常を歴史に刻む会共同代表
「加害の歴史」を見ない軍艦島ツアー
2009年5月、長崎の大波止港を出たチャーター船は約40分で軍艦島に到着、かつて強制連行された朝鮮人が「地獄門」と呼んだ場所から上陸した。私は作家・佐木隆三さんと彼の作品舞台(今回は軍艦島)をたどる一員に加わった。
現地案内者は島内の端島小・中学校を卒業したSさんで、説明は国内最古の7Fビルの耐堅性がすぐれているとか、丘上の役員社宅は風呂付き家屋なのに一般鉱員たちは共同浴場しかなかったといった類の話に終始した。唯一印象に残ったのは、坑夫たちが実質10時間労働の過酷な採掘現場に向かう途中の階段で、地底1000メートルの仕事を終えた坑夫らと鉢合わせの時、前者には緊張感が漂い、後者は笑顔があふれていたという話で、朝鮮人や中国人が強制労働させられた話は全く語られなかった。