vol.13.すべての犠牲者想う「記憶の遺骨」
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僧侶の読経が響くなか、他の遺族とともに引いた紐で慰霊碑を覆う布が取り払われると、彼女は堪えきれずに両手で顔を覆った。済州島出身で、現在は大阪市に暮らす在日一世、李福淑さん(1936年生まれ)である。2018年11月18日、天王寺区の統国寺で、「済州四・三犠牲者慰霊碑」の除幕式があった。
彼女は本欄2018年6月号で記した康実さんの従妹、即ち武装蜂起隊二代目総司令官、李徳九の姪だ。縁戚22人が殺され、自身の体にも銃創痕が残る。今も遺骨が見つからぬ親族もいるという。叔母の機転で討伐隊から逃れ、島内での8年に及ぶ逃走生活を経て渡航した。植民地支配に起因する難民を日本政府は「密入国者」として拘束、大村収容所に送った。今に至る難民政策の原点がここにある。知り合いに引き取られ、親族の居る大阪に着いたのは5ヵ月後のこと。
だが安寧には程遠かった。退去強制に怯える日々、苛立ちに思わず自らの親指に金槌を叩きつけたこともあった。「死んだ方がよかったと思うこともある」と言う。
写真:中山和弘
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。