vol16.揺れ、のたうちながらも~冨田さんの闘いぬいた意志
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少し躊躇してから、力強い声で彼女は言った。「『教組が要らん事するからや』と言われてね、私も一瞬、『もしかすると、そうなんかも』と。そんな考えが頭をよぎった自分自身が許せなかったんです」――。元中学校教員、冨田真由美さん。徳島県教組書記長時代の2010年4月、在特会メンバーらに襲われたヘイトクライムの被害者だ。
「理由」は朝鮮学校支援だった。2006年、初訪問した四国朝鮮初中級学校(愛媛県松山市)で、「教え/学ぶ」思いの熱さと、あまりの設備の古さに驚いた。さっそく上部組織「連合」のカンパ制度を通して学校に150万円を寄付した。「学ぶ権利が通う学校で左右されるのはおかしい」という、当然の思いの発露だったが、それをレイシストが嗅ぎ付けた。
京都朝鮮学校襲撃事件から約二週間後の2010年4月14日、十数人が組合書記局に乱入。拡声器を使い、書記長だった彼女の耳元で「朝鮮ババア」「腹を切れ」「売国奴」などと怒号し、肩を小突くなど暴行。その模様を動画サイトに投稿した。京都事件とほぼ同じ者たちだ。学校の次に彼らが狙ったのが、「支援者」だった。ネットには同調者が溢れ、組合には嫌がらせが相次ぐ。次の襲撃もあり得た。そんな時に聞こえて来たのが、「教組が要らん事するからや」という他団体の声である。性、ヘイト犯罪に特有の「犠牲者非難」だ…。(続きは「月刊イオ」2019年4月号に掲載)。
写真:中山和弘
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。