判決日は控訴人側の意見書提出以降:愛知無償化裁判、控訴審が結審
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高校無償化制度から不当に排除されたことにより、生徒たちの学習権、平等権、人格権が侵害されたとして、愛知朝鮮中高級学校の高級部生徒・卒業生らが起こした国家賠償請求裁判(愛知無償化裁判)の控訴審第3回口頭弁論が4月26日、名古屋高等裁判所1号法廷で行われ、裁判官は弁護団や支援者の抗議に耳を傾けず結審を取り決めた。また広島無償化裁判控訴審第5回口頭弁論が4月23日、広島高等裁判所で行われた。
文・写真:編集部
広島控訴審第5回口頭弁論
控訴人側に新たな陳述求める
朝鮮学校を高校無償化の適用対象外としたのは違法だとして、広島朝鮮学園と広島朝鮮初中高級学校高級部の卒業生らが国に対して処分取り消しなどを求めた裁判の控訴審第5回口頭弁論が4月23日、広島高等裁判所の304号法廷で行われた。
この日、法廷では朝鮮学園が提出した第8準備書面(3月1日提出)、原告の陳述書(4月8日提出)を踏まえ、学園側代理人の足立修一弁護団長と平田かおり弁護士が準備書面の要点について陳述を行った。
第8準備書面では、三輪定宣・千葉大学名誉教授による意見書、18年6月21日に九州無償化裁判第19回口頭弁論で実施された三輪名誉教授の証人尋問調書、田村和之・広島大学名誉教授(行政法学者)による意見書その2に基づいた主張がなされた。
三輪名誉教授の意見書では、教育財政学の立場から人類史における無償教育の意義・理念を強調しながら、高校就学支援金は、日本の学校と同様に差別無く朝鮮学校の生徒に支給されるべきだと主張している。
田村名誉教授の意見書では、生徒たちへの権利侵害の観点から不指定処分の違法性について「これまで、同学園に対し、法令違反の学校運営を理由とする監督官庁による監督権限の行使は、行われたことがない。他方、同学園が設置運営する本校が、教育上多大の成果をあげていることは、広く知られている。そのような学園に対し、不指定処分を行い、控訴人生徒らに経済的負担を課しても致し方ないというだけの事情があるとは考えられない。仮に学校の運営に法令違反があるとすれば、学校教育法や私立学校法などの定める是正方法により、それを正すのが筋である。そうせずに、生徒らに大きな不利益を課する本件不指定処分を不意打ち的に行うのは、生徒らの教育機会均等に寄与するという無償化法の目的からみて、到底正当化できない」と主張している。
裁判官は、控訴人側に朝鮮学園と朝鮮総聯の関わりについて、▼不指定処分時(2013年)に、学園の理事で総聯の役員を務めた人はどれくらいいるのか、▼2期6年を超えて務める理事は存在するのか、▼理事を退任し、その後、朝鮮総聯の職員、役員になるのか、などの人事上の問題について7月中旬までに陳述するよう求めた。
閉廷後、広島弁護士会館で報告集会が開かれ、広島朝高の高級部生徒、保護者、支援者ら約120人が参加した。集会で広島初中高の金英雄校長は、「裁判官には豊富な資料に基づいて、時間をかけて尋問を行いたいという姿勢が見受けられた。私も民族教育の姿を裁判官にしっかり示していきたい」とのべた。
次回、控訴審第6回口頭弁論は7月23日の14時から広島高裁で行われる。証人尋問は第7回以降に行われる。
愛知控訴審が結審
裁判官、異議に耳を傾けず
4月26日に行われた控訴審第3回口頭弁論では、控訴人(朝鮮高校卒業生)側が提出した第6、7準備書面(4月5日提出)の要旨陳述を、控訴人側代理人である裵明玉弁護士、中谷雄二弁護士が行った。
第6準備書面で裵明玉弁護士は、▼教育基本法2条5号に基づき朝鮮高校の教育内容を「高等学校の課程に類する課程」の判断要素とすることは許されないことについて、▼私立各種学校の自律性・多様性の尊重の必要に関する被控訴人の解釈の誤りについて、▼「不当な支配」の訴えの当事者は教職員、生徒、保護者に限定されることについてなどを主張した。
第7準備書面の要旨陳述を行った中谷雄二弁護士は、「朝鮮高校を規程13条に適合しないとして就学支援金の支給対象から排除した判断は、政府の介入が許される範囲を超えた教育内容の審査そのものであり、憲法違反である」「許されない基準に基づいて朝鮮高校を排除した本件不支給決定は教育基本法16条1項の『不当な支配』条項を濫用した政府の教育内容への介入であって、それ自体が『不当な支配』に該当する」などとのべた。
控訴人側は、控訴審において前川喜平氏(元文部科学事務次官)、成嶋隆氏(憲法・教育法研究者)、原告の愛知朝高卒業生をはじめとする5人の証人尋問の申請を行っていたが、要旨陳述後、裁判官は「いずれも必要性なし」とし、弁論終結を宣言、判決期日を取り決めようとした。これに対して弁護団から異議が唱えられ、傍聴席からも怒りの声が飛び交った。
裁判官は、控訴人側弁護団が、本件規定改正(規定ハの削除)と本件不指定処分の成立の前後関係からすれば国側の主張する本件不指定処分の理由は本件不指定処分の理由となり得ないことを主張した準備書面8(4月25日提出)と本多滝夫教授(行政法学者)の行政処分に関する意見書(6月末提出予定)を受けて改めて判決期日を決めるとして法廷を後にした。
閉廷後、報告集会が開かれ弁護団が第3期日の報告を行った。裵弁護士は「裁判所には、学者の意見を参考にしなければならない論点を十分に審議せず、また当然聞くべきと思われる最良の証人の尋問をあえてしないまま判決を下したいという姿勢が見受けられた。私たちは異議を申し立てたが、結審の判断は変わらなかった」と悔しさをあらわにした。弁護団は今後、弁論の再開を求めていく予定だという。
その後、愛知朝高高級部3年生による合唱が披露された。同校の女子生徒は、「私たちは必ずや無償化の権利を手に入れるべきであり、また手に入れることができると確信した。当事者である私たちが4・24教育闘争で果敢に戦った先代たちの精神を受け継いでいく。ここにいる全員が一つになり、民族教育とウリハッキョ、同胞社会を守っていくため最後までたたかっていこう」と呼びかけた。
今後の裁判日程
広島無償化裁判控訴審・第6回口頭弁論
7月23日(火)14:00~
広島高等裁判所
当事者たちの声差別の現場から
「心」でたたかう無償化裁判
姜順恵さん(47、愛知朝鮮中高級学校オモニ会会長)
私の子どもが初級部の頃に朝鮮学校が高校無償化制度から除外され、当時はただ、「無償化問題があるんだな」という認識に過ぎませんでした。そして愛知朝鮮中高級学校に進学してもなお続く無償化問題に正直、びっくりしました。高級部に進学すると次は自分の子どもたちが無償化適用を求めてたたかう立場になり、娘2人は無償化問題を解決できないまま卒業、息子は現在も同校で学んでいます。
愛知朝鮮中高級学校のオモニ会副会長を3年務め、今年4月に会長として無償化裁判に引き続き携わることになりました。裁判には、もし自分の子どもが裁判の原告だったら、私が原告の親だったらという気持ちで参加しています。3月の九州無償化裁判の地裁判決にも足を運びました。不当判決という結果になってしまいましたが、そこで日本各地でたたかっているオモニたちと裁判の関わり方、支援のあり方を共有し、地域ごとの特色ある支援活動に勇気をもらいました。
愛知無償化控訴審は、1回でも多く弁論を続ける必要があると思っていましたが、今回、裁判官は弁護団、子どもたちの声に耳を傾けず結審となってしまいました。裁判というと法律用語など難しい部分も多いですが、原告、弁護団、朝高生、オモニ、支援者たちは、愛知無償化裁判を「心」でたたかっています。「心」を武器に控訴審で必ず勝訴を勝ち取ります。