お助けとんぽライフ 相続:複雑な手続き、民法改正で新規定も
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在日同胞が直面する生活上のさまざまな問題の解決法について、人生のステージごとにわかりやすく解説します。
文時弘 ●在日本朝鮮人人権協会
相続
Q1 このたび父親を亡くしたユンさん。相続手続きが複雑でよくわからないみたいです。どうすればいいですか?
A:在日同胞が亡くなった場合、日本に住んでいるので相続においても日本の法律が適用されると思っている方も少なくありませんが、これは大きな間違いです。相続は、被相続人(亡くなった方)の「本国法」を適用します(相続人の国籍は一切関係ありません)。ただし、在日同胞の国籍と「本国法」は、必ずしも特別永住者証明書(または永住カード)の「国籍・地域」表示欄の「朝鮮」・「韓国」で決まるわけではありません(当然、被相続人が「帰化」している場合は日本法)。所持している旅券や渡航歴、所属している民族団体、本人の帰属意識などから総合的に判断され、本人と最も密接な関係がある南(韓国)北(朝鮮)どちらかの法律を「本国法」として適用することになります。
「本国法」が朝鮮民主主義人民共和国法(以下、共和国法)の場合、同国の「対外民事関係法」において、被相続人が国外に居住していた場合は基本的に居住国の法によることが規定されています。したがって、在日同胞の相続の場合は日本法を適用します。
一方、「本国法」が韓国法の場合、韓国法に同様の規定はなく、日本に居住する在日同胞であってもそのまま韓国法を適用することになります。
韓国法と日本法では、相続人の順位とその範囲や、法定相続分等に違いがあります。たとえば、夫が亡くなり妻と子が相続人となった場合、日本法では妻の相続分は常に2分の1ですが、韓国法では妻の相続分は子(1人分)の1.5倍という規定のため、子が多ければ多いほど妻の相続分は少なくなります。また、相続人の範囲も韓国法のほうが広くなるケースが多いため、代襲相続(相続人が既に亡くなっておりその子などが相続人となる場合)などが起きている場合は、相続人を確定する手続きだけでも大変な労力を要する場合もあります。
弁護士や司法書士など専門家に依頼する場合でも、在日同胞の相続手続きに詳しい同胞の専門家に相談することをおすすめします。
Q2 日本の民法が改正され、相続でも新しい規定ができましたが、これらは被相続人が韓国籍の場合は利用できないのですか? また、遺言は日本の方式で行ったものでも問題ないでしょうか?
A:韓国籍の同胞でも、遺言で「日本法により相続する」ことを定めることは可能です。たとえば、最近の民法改正で新たに規定された「配偶者居住権」(※)を利用するためには、日本法による相続をする旨を記した遺言が必要になります。
なにより、遺言は相続による親族の紛争を未然に防止することにもつながるので、残すべき遺産がある場合は生前に遺言を準備することを検討してみてください。
なお、在日同胞の遺言については、共和国法(対外民事関係法)・韓国法(国際私法)ともに日本法による方式で行ったものでも有効と規定されています。(おわり)
※配偶者居住権:相続開始時において被相続人所有の自宅に居住する配偶者が、相続開始後、その自宅に引き続き無償で居住できる権利。自宅物件が遺産分割の対象になることで配偶者が引き続き自宅に居住できなくなることを防ぐため、2020年4月施行の改正民法により新設される。
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