【学ぶ権利を目指して】無償化裁判で初の生徒保護者尋問
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広島無償化裁判の控訴審第8回口頭弁論が2019年11月20日、広島高等裁判所で行われ、原告である元生徒と原告の保護者に対する尋問が行われた。同月29日、東京では8月に原告敗訴の判決が確定した東京無償化裁判の弁護団による原告、保護者向けの説明会が開かれた。
文・写真:編集部
△広島原告の元生徒と保護者に尋問
無償化裁判控訴審第8回口頭弁論
前回の期日(10月10日)に行われた学校法人広島朝鮮学園の金英雄理事長の原告本人尋問に続いて、今回は、元生徒の原告(現在、広島朝鮮初中高級学校の教員)の本人尋問と全国5ヵ所の無償化裁判の中で唯一採用された原告の保護者の証人尋問が行われた。
原告尋問では、朝鮮学校を選んだ家庭環境や学校での一日の学校生活、クラブ活動など朝鮮学校のありのままの姿を紹介するように勧められた原告が、いつまでこのようなたたかいを行わなくてはいけないのか、自分たちの代で終わりにしたい、早く在校生たちを正常な学校生活に戻してあげたい、裁判官はしっかり判断してほしいと訴えた。
元生徒の保護者に対する証人尋問では、保護者が自身の生い立ちから始まり、朝鮮学校に初級部3年時から編入したこと、それまでは朝鮮人としての自分を隠して生きてきたこと、朝鮮学校で初めて本名を名乗り、いきいきと生活を送れたこと、それでも登下校時に差別やいやがらせがあったことなどを語った。そして、自身の経験から子どもたちを朝鮮学校に送らなければならないと判断したとのべた。
保護者は、当初は子どもを山口県内の朝鮮学校に通わせていたが、学校休校にともなって学校選びをどうするか決める際、子どもたちの口から「続けて朝鮮学校に通いたい、友達と一緒に学びたい、ウリマル(朝鮮語)や朝鮮舞踊をもっと習いたい」と泣きながら嘆願され、生活基盤のない広島へ引っ越し、地元の朝鮮学校へ転入することになったとのべた。そして、その時に親身になって助けてくれたのが地域の総聯組織であり、決して教育に不当介入するようなものではないと訴えた。最後に、裁判官に向けて「あなたの子どもが『裁判官』の子どもというだけで差別を受けたらどのような気持ちになりますか、私たちの気持ちがわかりますか」と問いかけ、尋問を終えた。
国側からの反対尋問は行われなかった。
尋問終了後、裁判官は、留保していた残り3人の原告尋問、同じく3人の証人尋問、学校への検証採用などをすべて行わないとし、3月16日の次回期日に最終陳述を行うこととなった。
口頭弁論終了後、弁護士会館3階ホールで、19時からは広島朝鮮学園4階多目的ホールで、それぞれ報告集会が行われた(写真)。【文・写真=広島朝鮮学園】
△東京〝たたかい、非常な意義あった〟
原告・保護者への説明会
東京朝鮮中高級学校高級部生徒62人(当時)が2014年2月17日に提訴した高校無償化裁判。19年8月27日に出された最高裁決定によって原告敗訴の判決が確定したことを受け、11月29日、原告・保護者合同説明会が東京朝鮮中高級学校で行われた。喜田村洋一弁護団長をはじめとする弁護団メンバー7人が、当時高級部生徒だった原告や保護者、同校の教員たちに説明した。
喜田村団長は、「最高裁決定を見ると、下村大臣や文科省がしたことがなぜ正しいのか、原告の訴えがなぜ間違いなのかが何も説明されていない。これだけ社会が注目している事件なのに、最高裁はわれわれの議論を正面から打ち破ることを考えつかなかった」「われわれは負けたが、最高裁の処理の仕方を見ると、法律論では完全に勝っている。そのような意味で私たちのたたかいは非常な意義があった」などとのべた。
李春熙弁護士も、「裁判の過程で勝ったと思った瞬間が何度もあった」としながら、「地裁では全国で唯一、文科省の役人を呼ぶことに成功し、喜多村団長による尋問で(朝高排除の)事実経過を明らかにしたが、決直前に裁判官が替えられ、敗訴。高裁の裁判長は私たちの主張を熱心に見て、第一回期日に、国側の主張(朝高排除の理由を2つとしたこと)は論理矛盾があると直接国側に問いただした。それを受けて国側も論理的に両立しない主張をしていると認めざるをえなかった」と法廷闘争の意義をのべた。
原告の男性(23)は、「裁判に期待する気持ちはあったが、日本の司法は形骸化していると感じた。それでも今日の説明会に足を運んだのは、原告以上に頑張ってくれた弁護団の話を聞きたかったら」と話した。 弁護団からは、「残る愛知、広島、九州の裁判を支援していきたい」「裁判を通じて生まれたつながりを生かし、東京中高に還元したい」などの意見も出された。
△兵庫補助金減額の撤回を
大学教員ら県に要請
兵庫県内の大学教員、研究者などが12月5日、朝鮮学校に対する補助金の減額撤回などを求める声明を県に提出した。
「朝鮮学校生徒の学ぶ権利の保障を求める研究者声明」を提出したのは、本声明の呼びかけ人である神戸市外国語大学名誉教授の田中敏彦さん、神戸学院大学准教授の李洪章さんら。呼びかけ人7人を含む432人の賛同と111の賛同人メッセージとともに声明を提出した。
井戸敏三知事にあてられた声明は、兵庫県が県内の外国人学校に支給している「外国人学校振興費補助」について、県が2018年度から「教員の3分の2以上が日本の教員免許を所有すること」とした要件を追加し、県内に6校ある朝鮮学校への補助金をおよそ半分に減額していることは「人権に関する国際基準に照らして極めて不当」として撤回するよう求めた。
また、19年10月にスタートした幼保無償化制度の対象から朝鮮学校を含む各種学校の幼児教育・保育施設が外れていることについても、県が国に改善を要請し、独自の支援策を講じることを求めた。