【学ぶ権利を目指して】九州、証人申請は却下、2月に第3回口頭弁論
広告
高校無償化裁判は、大阪、東京で19年8月の最高裁決定で原告敗訴となった後、九州、広島で控訴審が進められている。九州では、朝鮮学校と自身の関わりについて後藤富和弁護士が意見陳述を行い、審理継続が決まった。東京では前川喜平元文部科学事務次官の講演会が東京朝鮮中高級学校で行われた。
文・写真:編集部
九州審理継続が決定
無償化裁判控訴審第2回口頭弁論
九州無償化裁判控訴審第2回口頭弁論が2019年12月20日、福岡高等裁判所(福岡市)で行われ、約170人が足を運んだ。抽選の結果、92人が傍聴券を獲得。法廷では、原告側弁護団が第1準備書面と書証を提出し、弁護団の後藤富和弁護士が意見陳述を行った。
後藤弁護士ははじめに、自身と朝鮮学校との関わりについて言及。2002年、日本人拉致事件が明らかになったあと、福岡を含む全国各地で朝鮮学校に通う子どもたちに対する嫌がらせ、特に女子生徒のチマチョゴリ制服が切り裂かれる事件が頻発した。司法修習を終えたばかりの同志らと「在日コリアンの子ども達に対する嫌がらせを許さない若手弁護士の会」を結成し、朝鮮学校を訪問して聞き取り調査を行ったことが交流の始まりだったと話した。
後藤弁護士は、あたり前の権利をあたり前に要求している控訴人が負けるはずないとしながら、「この裁判で試されているのは、在日コリアンの方々の主張の正しさや要求実現に向けた努力ではない。この裁判で問われているのは私たち日本人とりわけ日本の司法の健全性だ。司法の一翼を担う者として、福岡の裁判所には人権保障の砦としての役割を果たし、未来に向かって名誉ある地位を占めて頂きたい」とのべた。
意見陳述のあと、次回期日について裁判長から提起があった。第3回口頭弁論が2月14日に決定すると、弁護団からは安堵の溜息と笑顔が漏れた。この瞬間まで次回期日が設けられるかどうか確定的ではなく、弁護団は今回で結審になることも想定していたという。
弁護団はそのまま、この間に裁判官に求めていた証人申請と検証の申し出が却下されたことについて質問。証人としては、▼無償化制度設計にも携わった前川喜平・元文部科学事務次官、▼朝鮮高校を不指定とした当事者である下村博文・元文科大臣、▼本件不指定処分がなされた当時、学校法人福岡朝鮮学園の総務部長を務めていた尹慶龍さん(現・北九州朝鮮初級学校校長)―を挙げていた。
これらに対し、裁判長が「必要性なしだと判断したから」と説明になっていない返答をすると、弁護団側は「どういう判断があって『必要性がない』としたのか」と何度も食い下がった。しかし、裁判長は最後まで質問に答えることはなかった。
その後に開かれた報告集会では、弁護団の金敏寛事務局長が傍聴に漏れた人々のために法廷でのやりとりについて報告した。また、体調を崩して休養中の服部弘昭弁護団長に代わり、今回から正式に後藤富和弁護士が弁護団長を務める旨を発表した。
最後に連帯のあいさつがあった。南の支援団体「조선학교와 함께하는 시민모임 봄(朝鮮学校と共にする市民の会・春)」と蔚山のキョレハナの人々がそれぞれ登場し、色とりどりの横断幕やカードを持って同胞、日本市民らにエールを送った。
弁護団は次回期日までに、国が主張する「不当な支配」の解釈について、岡山大学法学部の堀口悟郎准教授による意見書を提出する予定だ。
東京〝民族性、大事にして〟
東京中高で前川元事務次官が講演
東京朝鮮中高級学校(東京都北区)で12月21日、前川喜平・元文部科学事務次官が約1時間にかけて講演を行い14年2月の提訴以来、裁判闘争や金曜行動を通じて就学支援金の支給を訴えてきた生徒たちを激励した。
前川さんは、「高校無償化差別に象徴される官製ヘイトが続いていくと、在日コリアンと日本人との間で摩擦は増えていく。このような政治が続いていくのはいけない」として、大阪地裁をのぞいて国を勝たせた無償化裁判の司法判断について、「明らかに不平等だ。就学支援金の対象にするかしないかは、政府が勝手に決められることではない」と批判した。
また、朝鮮学校で学ぶ生徒たちに、「アイデンティティとは自分が自分らしくあるためのもので、朝鮮学校の大切さは、民族性を大事にしながら学びの時間を過ごせる点にある。日本には朝鮮学校にしかこのような学びの場はない。自分探しができる学校だと思う」と話した。11月17日に同校の公開授業も観覧した前川さんは、日本語と朝鮮語を交ぜた短歌作りの授業が興味深かったとしながら、「皆さんは日本生まれで、日本の文化もよくわかり、複数の言語に通じている。2つの文化にまたがる学びができるのがこの学校の良さ。朝鮮学校における民族教育は多文化共生社会の手本だ。日本と朝鮮との間の関係はいつか必ず変わる。両国の間に自由な往来が可能になったとき、この学校の生徒が増える。心強いことです」と期待を込めた。前川元事務次官は、九州、大阪、愛知、東京の裁判で陳述書を提出し、就学支援金制度を設計していた当初は、朝鮮高校が対象になっていたことを明かしていた。
△大阪10年間のたたかい振り返る
3月4日、大阪市内で集会
大阪では、大阪朝鮮学園が朝鮮学校に対する補助金の支給を停止した大阪府と大阪市を相手取って2012年9月20日に訴訟を提起し、13年1月24日には高校無償化制度から朝鮮学校を除外した国を相手取って裁判を起こしたが、補助金裁判は18年11月に、高校無償化裁判は19年8月27にいずれも最高裁が原告の上告を退ける決定を下し、朝鮮学園側の敗訴が決まった。
これらの結果も踏まえ、朝鮮学校に対する差別に反対する10年間のたたかいを振り返る集会が3月4日、大阪の東成区民センターで開かれる。集会の内容は、裁判弁護団からの報告、朝鮮学園関係者、朝鮮学校児童・生徒の保護者、支援者らによるリレートーク、映像上映、各地からのビデオメッセージ、幼保無償化からの朝鮮幼稚園除外問題に関するアピールなどとなっている。