【特集】次世代、行動するアート
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近年、同胞社会のみならず日本社会でも注目を浴びている在日朝鮮人アート。特に朝鮮学校の生徒や20代の若手らは独自の発信を重ね、新たな表現の場を活発に作り続けている。モチベーションとなっているものはなにか。直近の展示や作品から探る。
表現の場から対話を呼ぶ場へ
/「ふじゆうトピア」、1334人が来場
東京朝鮮中高級学校の美術部が企画した部展「ふじゆうトピア」が、1月22~28日にかけて池袋の東京芸術劇場・地下1階アトリエイーストで行われた(同月25、26日に池袋のオレンジギャラリーで同趣旨の企画展を開催)。アトリエイーストに1137人、オレンジギャラリーには197人、計1334人が足を運び大盛況となった。
入口横のメッセージ
入口横にはトイレの便座。ここでニヤリとする人も少なくない。フランス出身の芸術家、マルセル・デュシャンの作品「泉」を彷彿とさせるからだ。
「美術をしたことがある人ならすぐにデュシャンが頭に浮かぶ。もちろん意図して置いたやろうね」。今部展への賛同者として作品を出展した宋明樺さん(29)はそう話す。
デュシャンは、1917年にニューヨークで開かれたアンデパンダン展(誰でも参加できる公募展)に架空の人物のサインが入った便器を「泉」と名づけて出展。しかし「これがアートか」と物議をかもし、会場に作品が展示されることはなかった。
一方で「泉」を含むデュシャンの一連の作品・制作活動は、作品の背後に思想やメッセージを忍ばせて鑑賞者に問いを投げかける現代アートの潮流を生んだと言われている。
「芸術はアーティストが生み出す作品だけで完結するのではなく、鑑賞者が創造的行為に加わることによって作品が完成する」という言葉を残したデュシャン。
それらを聞いて改めて入口横の作品を見ると、今部展におけるスタンスを生徒たちがすでに示しているように受け取れた。
対話を待つ生徒たち
会場に入ると、期待のこもった眼差しが向けられる。
「解説させて下さい」―。作品の隣に待機する生徒が積極的に呼びかけている。来場者との対話を心待ちにしているようだ。一人が近づいて何やら質問すると、歓迎するようにいきいきと話し始める。…
“もう一人の自分”を表現する手段
/神奈川中高美術部を訪ねて
神奈川朝鮮中高級学校第16回美術部展「『』の自由」が、2月8~14日にかけて横浜大桟橋国際客船ターミナルで行われ、絵画、写真、映像作品約20点が展示された。1月某日、同校美術部を訪ね、部展までの制作過程を取材した。
部展のテーマは「自由」。昨年8月、あいちトリエンナーレ2019の展示のひとつ「表現の不自由展・その後」が脅迫を含む攻撃的な電話やメールによって中止となった。同校美術部の責任者を務める高級部2年の金滉基さんは、「表現者として、表現する自由を奪われたことを決して見過ごすことができなかった」と話す。
より深く「自由」について知るために、このテーマで部展を開きたいと部員に提案し、部員たちで二日間、「自由」について議論を交わした。…
進化する学美~若きアーティストたち
第48回在日朝鮮学生美術展・朝高生の入賞作品から、特別金賞・金賞を受賞した作品を紹介します。
〝小さな覚醒〟の積み重ねの先に
朴一南
●在日朝鮮学生美術展審査委員長、神戸朝鮮高級学校美術講師、63
日本のコンテンポラリーアート(現代美術)の代表的作家である会田誠が学美展(在日朝鮮学生美術展)や東京朝高美術部展などを通じて朝高美術部の表現世界に触れ、自身のTwitterで「こちらの美術部の展示、日本にある高校の中でも断トツに先進的な表現になっています。顧問の先生の的確な指導と、生徒たちの鋭敏な社会意識の賜物だと思います。 …
在日朝鮮人若手美術家が注目を集めるわけ
袴田京太朗 武蔵野美術大学教授に聞く
日本を代表する美術専門誌「美術手帖」2019年12月号の特集「移民の美術」で李晶玉さん、チョン・ユギョンさん(ともに朝鮮大学校美術科卒)ら在日朝鮮人の若手美術作家たちが取り上げられた。朝鮮大学校美術科と武蔵野美術大学との一連の交流に携わり、李さん、チョンさんとも学生時代から関わりの深い袴田京太朗・武蔵野美術大学教授に、交流の裏話や在日朝鮮人の若手美術家たちが日本のアートシーンで注目を集めるわけなどについて話を聞いた。
Q:「美術手帖」のインタビューの中で、李晶玉さんが朝大と武蔵美の間に橋をかけた「突然、目の前がひらけて」展(2015年、以下、「突然~」)を企画した時の話をしていました。朝大美術科と武蔵美との一連の交流について、先生からもお話をお聞かせください。
A:武蔵美と朝大は長い間、塀を一枚隔てたお隣さんとして存在してきましたが、ほとんど交流はなかった。私も武蔵美の卒業生なので、隣り合った朝大は学生時代から不思議な存在でした。教員として母校に戻ってから、担当していた学生が始めた交流をサポートするような形で関わるようになりました。はじめは朝大に美術科があることすら知りませんでした。こちらの希望としては、同じ制作者として何か共通点を探したかった。だけど、話せば話すほど考え方の違いが出てくる。私にとっても、学生たちにとっても貴重な経験になるという予感はあった。でも、交流が尻切れトンボになってしまったら責任重大だ、腹をくくってやるしかない、そう思いました。…
絵で出会い、オッケドンムに
/今年で20年目 東アジアをつなぐ絵画交流
いつか自由に出会えるその日に向けて、「オッケドンムしよう」! 朝鮮半島の北と南、日本、そして中国の子どもたちが絵で交流する絵画交流が、今年で20年目を迎える。
※オッケドンム(어깨동무)=竹馬の友、幼馴染の意
朝鮮半島、日本、中国
このプロジェクトは、朝鮮半島の分断により、今まで出会う機会がなかった朝鮮と韓国、日本に暮らす子どもたちが絵を通じて交流するもの。日本のNGO「KOREAこどもキャンペーン」などが参加する「南北コリアと日本のともだち展」や韓国のNGO「オリニオッケドンム」の呼びかけによって実現された。
朝鮮学校も当初からこの絵画交流に大きく関わってきた。最初は絵画だけが行き交う交流だったが、子どもたちが実際に会う交流へと発展。02~08年には平壌、ソウル、東京で朝鮮学校や韓国、日本の子どもたちが出会い、触れあった。平壌市大同江区域のルンラ小学校では、02年から「ともだち展」による「朝・日子ども絵画展」が開かれ08年まで続き、05年からは東アジアの各地域の子どもで作る共同制作が始まった。…
以上は特別企画からの抜粋になります。全文ご覧になるには本誌をご覧ください。購読お申し込みはこちらへ。
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