【学ぶ権利を目指して】文科省の「調査事業」、18の自治体が手上げ
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幼保無償化対象外の朝鮮幼稚園
文:宋恵淑
本誌4月号に「4月からの新事業、自治体への働きかけを」(39p)という文章を寄せたが、その時点では詳細不明であった「新事業」の内容などが3月23日に公表された。その「新事業」の正式名称は「地域における小学校就学前の子供を対象とした多様な集団活動等への支援の在り方に関する調査事業」(以下、「調査事業」)。これは、国が自治体に委託して、当該自治体下の「幼保無償化」対象外となった幼児教育施設の実態や施設に児童を送る保護者の意識、今後の支援のあり方などに関して調査し、来年度以降の「幼保無償化」の対象外となった子どもたちに対する本格的な支援につなげるというもので、自治体による手上げ形式の公募は、5月22日に締め切られた。
ただ、この「調査事業」には大きな問題点が2つある。問題点①は、「調査事業」の対象となる施設は自治体によって現に保護者補助金などといった金銭的支援が講じられている場合に限るという前提条件が付されていることだ。「高校無償化」除外という国の差別に連動する形で朝鮮学校・幼稚園に対する補助金を停止する自治体が続出しているなか、同じ朝鮮幼稚園という枠組みのなかでも自治体からの補助金の有無によって「調査事業」の対象となる/ならないの線引きがなされてしまったのだ。そして、問題点②としては、①をクリアしていても、つまり自治体から補助金が支給されていたとしても、公募に手上げするか否かの判断は自治体に丸投げされたため、そもそも「調査事業」への手上げ自体に消極的だったり、今般の「コロナ禍」の状況で「調査事業」の要領を見てもいなかったり、精査できずにいたと言い訳をしたりと、不誠実な対応をとる自治体が残念ながらあったということだ。
こうした問題点がありながらも、「調査事業」に対して、朝鮮幼稚園に通う園児が居住する18の自治体が手上げした。正直にいうと、こんなにも多くの自治体が手上げするとは思っていなかった。当事者らによるたゆみない運動の成果であると感じている。と同時に、幼い子どもたちまでをも理不尽に適用除外した「幼保無償化」問題に対し、日本の支援者の皆さんのみならず、国会議員や地方議員、そして各自治体の子育て支援や幼児教育・保育の担当者らのなかにもおかしい、なんとかしたいと思っている人が多数いるのだと、改めて感じた。
とはいえ、まだ手放しで喜ぶ段階ではない。最終的に朝鮮幼稚園以外の幼児教育類似施設に通う子どもたちのいる自治体も含めて、「調査事業」に手上げした自治体のうち、どの自治体に「調査事業」が委託されるかは、文科省が選出した委員らで構成される「審査委員会」による審査で決められるからだ。現在朝鮮幼稚園としては、文科省などに対し「審査委員会」において朝鮮幼稚園はずしなどの理不尽がおきないよう、適正な審査を求めているところである。その審査結果は6月下旬にも判明する予定なので、次号以降、朝鮮幼稚園児が居住する自治体が選定されたかどうか、報告する機会を得られればと思っている。(幼保無償化を求める朝鮮幼稚園保護者連絡会)
△大阪朝鮮学校排除しないで
5月12日から「火曜日行動」再開
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため一時的に休止していた街頭アクションが、緊急事態宣言の解除を受けて各地で再開されている。大阪では、2012年4月17日から大阪府庁前で続けられている、朝鮮学校に対する地方自治体の補助金支給再開などを求める「火曜日行動」が5月12日から再開された。
383回目となった6月2日の「火曜日行動」では、困窮する学生への支援として文部科学省が発表した「学生支援緊急給付金」に関して、外国人留学生には成績上位の要件が設置され、朝鮮大学校に通 う学生が対象外とされたことは国際人権条約に反する差別であるという声が上がった。朝鮮学校に子どもを送る保護者もマイクを握り、子どもたちの学ぶ権利、生きる権利を否定しない政治を行ってもらいたいと訴えた。
△愛知上告理由書、上告受理申立書提出
愛知無償化裁判弁護団
無償化除外の憲法違反を主張する前提として、朝鮮高校生の「無償化」除外が、生徒個々人の憲法上の人権を侵害するものであったことを強調している。高裁判決は、愛知朝鮮高校を「無償化」の対象としないと決めた不指定処分は朝高生の権利を侵害するものではなく、生徒らは慰謝料請求できる立場にないと断じたためだ。
(ⅰ)憲法14条違反
不合理な差別を禁止した憲法14条1項の下では、特定の対象を区別することは、区別する目的に合理的根拠がないか、または、その区別と目的との間に合理的関連性がない場合には不合理な差別として違憲となる。国が、省令イ・ロ・ハの外国人学校の中で省令ハのみを対象から除外したこと、さらに、省令ハの学校の中でも朝鮮高校以外の学校には省令削除による不利益を被らないよう経過措置を設けながら、朝鮮高校のみを対象外としたことは朝高生という社会的身分に基づく差別に当たり、違憲である。
名古屋地裁審判決は、朝高の教育内容に対し、「北朝鮮の政治指導者を個人崇拝し、その考えや言葉を絶対視するような内容のものとなっている」「過度に偏り」「思想的要素がある」疑いがあると認定した上、その「偏り」そのものから、総聯による愛知朝高に対する「不当な支配の疑い」を認定した。高裁判決はさらに、「愛知朝高の学校運営や教育活動が、朝鮮総聯の介入により理事会等による自律的な運営が行われず、北朝鮮の政治指導者を個人崇拝するようなものになっていることは、同項の『不当な支配』に該当する」と判断した。このような高裁判決の解釈は、思想信条の自由を保障する憲法19条及び思想信条において差別されないことを保障する憲法14条1項に違反し、かつ、民族マイノリティに属する子ども達が民族教育を受ける権利を保障する憲法13条、26条1項にも違反している。