vol.32 心の痛みを汲みとってくれた” フジ住宅訴訟、環境型レイハラを違法認定
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差別は受ける者から社会への「信頼感覚」を奪う。1月号で書いたレイシャルハラスメント裁判は、奪われたその信頼の回復を求める当事者の闘いの一つだ。社内文書として嫌韓嫌中本や歴史改竄本、ヘイト文書を執拗に配布され、右派教科書採択運動にまで動員された在日韓国人三世のパート女性(50代)が、勤め先の大手不動産会社「フジ住宅」と、今井光郎会長に向けて発した「否」の声。一人立ち上がった彼女に対して7月2日、司法が判断を示した。
「社内文書」の配布は約8年前に始まった。「在日は死ねよ」「嘘つき民族」「卑劣」「野生動物」などと韓国人や中国人を罵倒。元「慰安婦」を嘘つき呼ばわりし、日本の加害を否定する。そんな本やネット文書のコピーが職場で次々と配られる。多い時で月1000枚にも上った。
隣国、隣人への敵意、蔑視を煽り、「無謬の歴史」を振りまく。会社側はそれを染み付いた「自虐史観」を払拭する社員教育と言い募った。そこには「他者なき世界」をどこまでも志向するこの国の病理が濃縮されていた。彼らにとって「歴史」は、「共生の未来」を築くための対話の相手ではない。自己愛を満たし、他者を貶めるために改竄、捏造する道具に過ぎない。…(続きは月刊イオ2020年8月号に掲載)
(写真)判決後のオンライン集会でカメラに向かってあいさつをする原告の女性(堺市堺区北花田口町3で2020年7月2日)
写真:中山和弘
写真:中山和弘
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。