【イオ ニュース PICK UP】9月14日に判決言い渡し/京都朝鮮学園へのヘイトスピーチ事件、「公益目的」認めた地裁判断是正なるか
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「在日特権を許さない市民の会」の元幹部で、京都朝鮮学校襲撃事件(2009年)の主犯格である西村斉被告が京都朝鮮学園に対して行った名誉棄損事件の控訴審判決言い渡しが来週14日(月)に迫っている。直前になったが、正しい判断を求める声がさらに集まるよう、イオwebでも事件の概要とこれまでの経緯をまとめた。
より簡潔に知りたい方は以下の画像を。「朝鮮学校と民族教育の発展をめざす会・京滋(こっぽんおり)」のメンバーたちがまとめたもので、要点が一目で理解できる。※クリックで拡大できます
事件の概要
西村被告は、京都朝鮮学校襲撃事件裁判において侮辱罪・威力業務妨害罪・器物損壊罪で有罪判決を受けた(2011年4月21日)人物だ。その後、服役したが、刑務所から出所して間もない17年4月23日、同じ場所である京都朝鮮第1初級学校(現在は跡地)近隣の公園で拡声器を用いて「ここに日本人を拉致した朝鮮学校があった」「その朝鮮学校の校長ですね、日本人拉致した」などと差別的な発言を繰り返した上、そのようすをインターネット上に配信した。
事件を受けて京都朝鮮学園側弁護団が告訴し、京都地検が西村被告を名誉棄損罪で在宅起訴したのが18年4月20日のこと。一審初公判は19年9月4日に開かれた。同年11月29日の判決言い渡しで京都地裁は、西村被告を有罪とし罰金50万円を命じた。
しかし一方で大きな問題が。京都地裁は、西村被告の発言のうち、「拉致問題」に言及した部分については、物事を一般に知らせるための「公益を図る目的」があったと認定したのだ。学園側弁護団からは、「ヘイトクライムの本質を見失った全くの不当判決である」「国による差別を司法が許してしまっている現状が、現場でのヘイトスピーチを助長してしまっている」「ヘイトスピーチに公益目的があると断言した最悪な判決」など非難が相次いだ。
学園側弁護団は検察に控訴を求めるも見送りに。結果的に、西村被告自身が有罪判決を不服としたことで今回の控訴審が持たれている。
控訴審の経緯
控訴審の初公判は今年7月13日に大阪高等裁判所で行われた。法廷では、西村被告の弁護人が控訴趣意書を提出し、要旨を陳述。弁護人は、名誉棄損したとして訴えられている西村被告の発言(前述)について、「京都の朝鮮学校の校長が『拉致事件』に関与したという趣旨で受け取られてしまったのならば、それは言い間違いや舌足らずで、本来は、朝鮮総聯傘下の朝鮮学校一般を指しているという意味だった」という旨の解釈論を展開し弁明した。
対して検察官は、被告側控訴趣意書に対し反論書面を提出し、原判決のうち「公益を図る目的を認定した点」につき「不満を禁じえない」とのべるに留まった。基本、刑事事件の手続きにおいては被害者側に証拠提出や意見陳述の機会が与えられない。控訴審は即日結審した。
公判後の報告集会では、京都朝鮮学園側弁護団の事務局長を務める冨増四季弁護士が「非常に腹立たしかった」と法廷内の雰囲気を伝えた。「西村被告の、ただのでっち上げに対して弁護人は『言い間違えたんです、舌足らずだったんです』と言った。裁判所を馬鹿にしているんじゃないかと思う弁解だった。京都地裁が『公益目的』を認めたがために、調子に乗っていると感じた」。
東京から駆けつけた師岡康子弁護士も発言。「裁判所がきちんと本来の事実認定をすれば、『拉致問題』などは単なる名目に過ぎず、ただの差別目的なんだということが認定されると思う。ただ裁判所にしても検察にしても、ヘイトクライムとは何かを理解していない。根本を変えなければいけない」とのべながら、「今回の判決が、少なくとも『公益目的』を否定する内容であることを強く願う」と結んだ。
龍谷大学の金尚均教授は、「この事件は、フェイクニュースを流して差別扇動をした、典型的なヘイトスピーチ。西村被告は明らかに自分の発言を嘘だと知っている。しかし京都地裁は『拉致問題』に意識をとられて『公益目的』を認めてしまった」と問題視しつつ、「ただ今回の唯一の望みは弁護人が言った『言い間違い、舌足らず』という言葉。名誉棄損は、いい加減なことを言って相手の名誉を棄損することを処罰するもの。裁判官が気づいてくれるなら、『公益目的』が否定されるかもしれない」と解説した。
質疑応答では、会場から「いま何かできることはあるか?」との質問が寄せられた。弁護団の上瀧浩子弁護士は、「世論をどれだけ大きくしてもらえるか。twitter、Facebookでニュースを広めて下さっている方もいる。それによってマスコミも取り上げようという気になると思う」と回答。
自身も京都中高の卒業生である玄政和弁護士は、「恐らく西村被告は、どのような判決が出てもまた同じことを絶対に繰り返す。そうしたことに対して引き続き、一人ひとりが声を上げていくことが求められると思う」と発言した。
続いて持たれた記者会見ではまず、京都朝鮮学園の趙明浩理事長が発言。京都地裁の判決言い渡し後に始められたネット署名に日本国内ほか海外からも多くの賛同があったと感謝をのべたあと、「2009年の『京都朝鮮学校襲撃事件』以降、同じ地でなされたヘイトスピーチは、学園の児童・生徒、当時の卒業生、関係者たちに再び苦しみ、悲しみ、不安を与えた。二度とこのようなことが繰り返されないよう、厳しい判決が下されることを切に願っている」と強調した。
法廷で公判を傍聴した感想を求められ、口を開いたのは弁護団の具良鈺弁護士。「気分が悪かった。ヘイトスピーチの二次被害であり、“ヘイト法廷”かと思ったくらいだ」とのべた。
「私が小さい頃も差別事件があったし、私自身も経験した。当時は“こそこそ”という印象だったが、今はもう堂々と組織を作り、人を動員して差別をしている。しかも裁判所という判断権者の前でそれを垂れ流しても許されてしまう社会になってしまった。非常に日本社会に対する危機感を持ったし、在日コリアンとして日本社会で生きていくことに絶望を感じた。私たちの子どもの世代は、そのような社会で生きていかなければならない。
在日コリアンであり子どもという、2重の弱者性を持つ存在への差別は、これまでも日本社会における差別の最先端だった。在日コリアンの子どもたちに向かった攻撃は、次に在日コリアン全体、次第に他の外国人や障害のある人、性的マイノリティなど、どんどん波及する恐れを持っている。この事件を扱う裁判は、それを防ぐことができるかどうかの分岐点だと思う」(具弁護士)
最後に、大阪高裁の判決に求めることを聞かれた冨増四季弁護士は、「西村被告の発言に『公益目的』があるとした京都地裁の判断を是正し、この事件は『人種差別であった』ということをきちんと明記してほしい。これまでの証拠資料を客観的に見れば、それが普通の判断だ。国際的な基準に照らしても当然認定されるべき。是正されなければ、日本の刑事司法は今後どうなっていくのかと危機感を抱く」と念を押した。
大阪高裁での判決言い渡しは9月14日の午前11時から。傍聴に関する詳細はこちらから。(文・写真:黄理愛)