【イオ ニュース PICK UP】『ぼくは挑戦人』著者、ちゃんへん.さん独占インタビュー
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8月26日に自身初となる著書『ぼくは挑戦人』を出版したプロパフォーマー・ちゃんへん.さんを、翌27日に大阪で取材することができた。(月刊イオ10月号の「著者インタビュー」に掲載)
著書には載っていない家族とのエピソードや、誌面に載らなかったインタビューを紹介する。
―ご自身の半生を本にした理由について教えてください。
2008年までは、日本を離れ海外で活動していたのですが、「生まれ育った場所でしっかり活躍しないと」と思い、日本に帰ってきました。ただ、2002年から東京都がはじめた「ヘブンアーティスト」という事業で、パフォーマーの出演料の相場が下がり、それに屈すまいと今まで通りの料金を提示していると、仕事がほとんどなくなっちゃったんです。そこで、ショービジネスのマーケティングを勉強し始めて、出会いの幅が広がっていき、ある飲み会の場に居合わせた学校教師から、人権学習の一環として講演を頼まれました。
「教育っぽくならないでいい。君の人生をそのまま聞いていたら『在日』が見えてくるから好きにしゃべってくれ」と言われたので、ジャグリングやラップを披露した後に、自分の経験を話したんですね。
思いのほか反響があり、その反響がSNSで拡散され講演の仕事が増えていくにつれ、多くの方から本の出版を求められました。中には、「実は自分も在日です」とカミングアウトしてくれたおばさんもいましたね。
昨年がジャグリングを始めて20周年、2022年がプロになって20周年ということで、本を書くタイミングも悩んだのですが、「2010年代が終わる、令和、オリンピックイヤー」という節目でもあるし、外国にルーツがある移民が増えている日本で多様性と向き合わなくてはいけないなとの思いから、このタイミングで本を出しました。
―本書ではゲームなどの身近な話から「共通点」を語っていますね
この本のテーマは「共通点」なんですけど、人間、互いの共通点を見つけることで、本当に人生が変わると思っています。
本には書いていないのですが、ある日ホスピスにいた1世の祖父に会いに行くと、僕をみるなり「밥 먹었나?(飯食ったか?)」と聞いてきたんです。自分が余命宣告まで受けているのに、人が飯食ったか心配するなんて意味わからないですよね(笑)。でも、こういう感覚は在日に限らず戦時や戦後、満足にご飯を食べられなかった世代の共通点なのかなと思いました。このように、ネット上では隠れがちな共通点っていっぱいあると思うんですよ。
祖父は「民族の誇りを持て」みたいなことを言う人ではなく、「諦めるな、頑張れ」という言葉をよくかけてくれたのですが、これは1世の「やってみせる!」という気質というか、共通点なのかなと思いました。
一方の祖母は、「なんでも1番になれ」という人で、学芸会の演劇で主役じゃないからとボコボコにされました(笑)。でも、こういう気質は、もしかすると朝鮮民族の共通点なんじゃないかな。
よく韓国のデモとかを見て、「韓国人って団結力すごいね」って声を聞きます。個人的には在日コリアンには「団結」という言葉が当てはまると思いますが、朝鮮半島に限らず中国なども、彼らは団結というより「自分が先にやりたい」という自尊心を持つ人たちの集合体のような気がするんです。それが、「私がやってあげる」というお節介だったり優しさだったりもして。
一方の日本の人たちには、「譲り合い」「謙遜」「調和」という気質がありますよね。どの国でも、自分と違う人について知識がないと、自分より弱い立場の人たちを攻撃しようとするじゃないですか。日本と朝鮮半島との間には、互いのギャップがありすぎる。それをメディアが煽り、無意味な争いが起きていると感じます。
例えば、ヘイトスピーチを吐く若者の話をとことん掘り下げていくと、彼らが抱えている不満や悩みの本質は在日じゃなく、家庭や社会にありました。在日はただ攻撃しやすかった対象なだけ。このことに気づかない人たちは、在日コリアンに限らず、どの民族、どの宗教に対しても同じこと繰り返すと思います。
―どのようなことを意識して本を書きましたか?
「なに人だから、こう」とかはいっさい書かず、出会った範囲で知ったこと、自分が気づいたことを「僕も知りませんでした」という感じで書きました。
今まで学校で講演をしてきて、中高生の感覚がなんとなくわかるので、なるべく僕の体験に感情移入しながら読んでもらえるように意識しました。
在日コリアンも日本人と同じように家でアニメやドラマを見るし、韓ドラを見たとしても、韓国の社会や政治の内情よりは日本の政治、政策を気にするじゃないですか。「気にしかた」で言うなら、日本人は景気や老後を考えるのに対し、在日コリアンには「自分たちはこれからどうなるのか」という不安が伴う。その不安から、子どもたちのことを考えて帰化した人がいるかもしれないが、そういう感情の部分は教科書には載っていない。
「38度線が引かれた」という記述にも、家族がバラバラになった人の心情は載っていない。そういう部分を伝えられる本にしたかった。
少し話が逸れますが、朝鮮戦争に参加した日本人や、朝鮮に住む日本人妻をどう思うかを日本の人たちに聞きたいです。そもそも、このような方々の存在もすごく無視されていますよね。
この方々について、「自業自得だ」っていう声を何度か聞きましたが、日本の帝国主義システムの中で戦地に送られた人、そこで結婚して家庭を築いた人を前にしても「自業自得だ」と言えるのか―。国同士の歴史を学ぶのもいいが、この本を通して一人ひとりの気持ちを吸収してほしいと思います。
―読者にどんなことを伝えたかったですか?
朝鮮籍から韓国籍に変えるとき、祖父が「自分の夢はもう叶わないが、お前の夢は国籍をとったらチャレンジできる」と言ってくれたことがすごく心に残っています。「書類上の朝鮮人より、人として挑戦し続けろ」というのは、1世のポジティブな姿勢だと思うんです。
僕の祖父母は、時代のせいで夢を叶えることができませんでした。彼らができなかったことを自分たちがチャレンジできるのであれば、「挑戦しなければ」と思います。人間にとって民族や宗教なども大事だが、やりたいことを自分で選択し、変化を恐れすぎずチャレンジしていくことの大切さを感じてほしいです。
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『ぼくは挑戦人』〇集英社
著:ちゃんへん./構成:木村元彦
価格:1800円(税別)
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(文・写真:朴明蘭)