【ニュース PICK UP】一審の判断を追認、規定ハ削除の違法性も判断せず―広島無償化裁判、朝鮮学園・卒業生側の控訴棄却
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国が朝鮮学校を高校無償化制度の適用対象から外したのは違法だとして、広島朝鮮初中高級学校を運営する学校法人広島朝鮮学園と同校卒業生109人が原告となり、国に対して処分の取り消しや損害賠償を求めた訴訟(以下、広島無償化裁判)の控訴審の判決が10月16日、広島高等裁判所(三木昌之裁判長)で言い渡された。高裁は原告側の訴えを退けた一審の判決を支持し、控訴を棄却した。原告である広島朝鮮学園と卒業生側は二審も敗訴となった。
控訴審判決は、一審に続いて、「法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない」とする規程13条に広島朝鮮初中高級学校が適合しているかどうか(規程13条適合性)に関する文部科学大臣の判断に「裁量の濫用、逸脱はない」と判断した。控訴人(原告)が強く求めた、朝鮮高校を無償化の対象として指定する根拠となる規定ハを削除したことの違法性についての判断も回避した。
原告側が申請した証人尋問、本人尋問をすべて却下し、不当判決を言い渡した地裁から一転、控訴審では証人尋問、本人尋問が実施されたほか、裁判所から積極的な求釈明がなされるなどした。しかし結局、原審の判断を追認する結果に終わった。
今回の判決を受けて、原告側は「決して受け入れられない」として上告する方針を示している。
規程13条適合性で押し切る
控訴審判決は、本件訴訟における主要な争点として、①本件規程13条の性質および広島朝鮮初中高級学校が規程13条に適合するものと認めるに至らないという文部科学大臣の判断に裁量の逸脱、濫用が認められるか、②広島朝鮮初中高級学校を不指定とした処分は手続き的に違法で、無効となるか、③朝鮮高校を無償化の対象に指定する根拠である規定ハを削除した省令改正によって、本件不指定処分が違法となるか、④本件不指定処分が日本国憲法や国際人権法に違反するか、の4つを挙げた。
三木裁判長は①については、規程13条適合性の判断や「不当な支配」に関係する事情の判断については文科大臣の一定の裁量に委ねられていると指摘。公安調査庁の資料や国会答弁、各種報道などを挙げて、就学支援金が適切に使われることや学校運営が法令に従った適正なものであることについて「合理的な疑いが生じる」状況にあったとのべた。そして、これらの事情を総合的に考慮すると、広島朝鮮初中高級学校が規程13条に適合するものと認めるに至らないという文科大臣の判断が「不合理とはいえない」、無償化の対象に指定しなかったことは文科大臣に与えられた「裁量を逸脱したり、濫用したものとは認められない」と判断した。
また、③の「規定ハ削除の違法性」についても、▼規程13条適合性が認められないという判断に違法性は認められず、この判断は規定ハ削除がなければ成り立たないという関係にはない、などの理由を挙げて、「判断を要しない」とした。
そして、②については「行政手続法違反はない」、④についても、①の判断を理由に「憲法13条、14条および平等権を保障した国際人権法に基づく権利を侵害するものとはいえない」などとした。
控訴審で原告側弁護団はとくに、国側が不指定処分の理由としている「朝鮮高校が規程13条に適合すると認めるに至らない」という点について、規程13条の「法的性質」に関する主張を展開してきた。弁護団の主張は、「そもそも規程13条の『…指定教育施設は、高等学校等就学支援金の授業料に係る債権の弁済への確実な充当など法令に基づく学校の運営を適正に行わなければならない』という文言は、指定された学校は学校運営を適正に行わなければならないという当たり前のことが書かれているだけであり、指定する際に満たすべき要件を定めたものとは読むことはできない。規程13条は生徒に就学支援金が支給されることが決まった後の問題であり、この条文も指定後の運営指針を示したものと理解するのが相当」だというものだ。しかし、この点についても控訴審は判断を回避した。
「問題の本質を見ることを避けた」
今回の判決を受けて、弁護団は声明を発表。文科大臣によるハ規定の削除は、「無償化法1条の『教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の機会均等に寄与』するという目的に完全に反し、それと同時に、朝鮮学校を永久に指定しないという明確な差別的意図の現れである。そのような文科大臣の行為を容認する判決は、少数者の人権を守るという役割を放棄したという他なく、弁護団としては、裁判所の判断を到底受け入れることはできない」と判決を強く非難した。(弁護団声明の全文はこちら)
判決言い渡し後の記者会見で原告側弁護団の平田かおり事務局長は、今回の判決について「原判決を追認し、それをよりいっそう決定づけるような書きぶりの判決。原判決が書き足らなかった部分を穴埋めして強化した」とのべた。平田弁護士はさらに、「原判決と同じく、規程13条に適合するか否かの判断だけで判決が下された。弁護団としては、朝鮮高校が指定される根拠となる規定ハを削除した違法性について判断することを強く求めたが、高裁は地裁と同様に判断しなかった。ここを判断してもらえないとこの問題の本質は見えない。裁判所は本質を見ることを回避した」と指摘した。
足立弁護団長も、「極めて残念な判決だ。最高裁でこの判決をただしてもらいたい」と話した。足立弁護団長は、「今回の判決でもっとも許せないのは、規程13条適合性さえ判断すれば、規程13条の上位規範である文科省令にある規定ハを削除したことの是非を判断しなくてもいいとしたこと」とのべた。また、「無償化の対象として指定された後にきちんと学校運営がされているかどうかチェックするための条文である規程13条を、国は指定時の基準にすり替えて不指定処分を下した。これは13条の悪用だ。弁護団はこれが最大の問題であると指摘したのに、高裁はこれにまったく答えずに口をつぐんだ」と批判した。
記者会見後、夕方からは広島朝鮮初中高級学校で集会が開かれた。集会のもようは追って報じたい。
2013年8月1日の広島地裁への提訴から始まった広島無償化裁判は、17回の口頭弁論を重ねて17年3月8日に一審が結審。広島地裁は同年7月19日、原告全面敗訴の判決を言い渡した。原告側は8月1日、地裁判決を不服として控訴。翌18年5月15日に控訴審の第1回口頭弁論が広島高裁で開かれた。控訴審は今年6月12日に結審した。
朝鮮高校無償化裁判は広島を含む日本全国5ヵ所で起こされた。東京、大阪、愛知の訴訟は最高裁で原告側敗訴が確定している。九州(福岡)訴訟は今月30日に控訴審の判決が言い渡される予定。(文・写真:李相英)