【イオ ニュース PICK UP】この社会を変えなければ—九州無償化裁判控訴審、判決後の報告集会
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●受け入れられぬ“不当な支配”
10月30日、九州無償化裁判控訴審の判決言い渡しで福岡高裁は原告の控訴を棄却。記者会見のあと、15時から報告集会が開かれた。
はじめに、九州朝鮮中高級学校の全瑨成校長が福岡朝鮮学園の声明を発表した。(※瑨=王へんに晋)
「本日の不当判決は、本校の68名の原告にのみ関わるものではありません。『高校無償化』制度が始まった2010年から現在まで全国の朝鮮高級学校10校に在籍したすべての朝鮮高校在校生に該当するもの。…行政府の主張をそのまま受け入れ、子どもたちの神聖な学ぶ権利を侵害し、司法の歴史に汚点を残した全国5ヵ所の高裁の不当判決を、私たちは絶対に認めません」
続いて九州中高オモニ会の安玉喜会長が発言した。
「日本に住む私たちにとって、北は祖国、南は故郷、日本は生まれ育った地であります。そして総聯組織とは、異国の地で在日同胞の権益擁護と民主の尊厳を持ち、母国の言葉、文字、文化と歴史、風習をはじめとする素養を持つようにし、同胞社会において民族性を守り、発展させるための組織です。いまの在日同胞の歴史があるのは、わが祖国と組織があるからです。これを『不当な支配』というならば、異国の地で差別と偏見の中、在日同胞は何を支柱として生きていけばよいのでしょうか。決して、これを高校無償化から朝鮮学校を除外する理由にしてはなりません」
安会長は「法廷で当たり前の権利を得られないのであれば、新たな闘いの道を拓く必要があります」とし、さらなる連帯を呼びかけた。
●長く辛い闘いでも~日本各地から
続いて、日本各地から応援に駆けつけた参加者たちから連帯のあいさつがあった。
東京から訪れた、「朝鮮学校『無償化』排除に反対する連絡会」の長谷川和男共同代表は、「10年間、制度から排除され、その中でずっと闘ってきた子どもたちに思いを馳せ、悔しさが一気に噴き出してきて涙がこぼれた」としながら、「どんな結果になろうとも、明日も明後日も民族教育は続けられていく。“ウリハッキョ”を守り抜くのは日本人にも共同に課せられた任務だ」と前を見据えた。
「朝鮮高校にも差別なく無償化適用を求めるネットワーク愛知」の原科浩共同代表は、「敗訴判決を受けて悔しい思いはあると思うが、それは負けた悔しさではない。当たり前の権利がなぜ認められないのかという悔しさ、そして差別をしている政府と、それに追随している情けない司法への悔しさだ。判決を聞くたびに、むしろ裁判官たちは追いつめられているのではないかと私は思う。今日はこの悔しさと悲しみと怒りを共有して持ち帰りたい。それは決して負けを認めるわけではない。明日からの闘いの力に変えるためだ」とのべた。
無償化裁判で最高裁棄却を受けた愛知では、11月12日に総括集会を行う。団体名を「民族教育の未来をともにつくるネットワーク愛知」に変え、“アフター裁判”の在り方を見据えた議論を行っていく予定だ。
続いて、京都朝鮮中高級学校のオモニ会に就任した2017年から、各地の無償化裁判に足を運んでいる朴錦淑さんが登壇した。朴さんは、この3年間で目撃してきた「二度と目にしたくない、むごくて辛い光景」の一つひとつを振り返って思いを吐露した。
朴さんは、差別反対の声を上げる子どもや同胞たちの姿を見た数日後に、たまたま街でクリスマスのイルミネーションを目にした過去の日を思い出しながら、「日本社会の片方では酷いことが起きているのに、もう片方ではそれを知らずとも生きていける人がいて、回っている社会があり、その現実とのギャップに吐き気がしました」と喉を震わせた。
「でも私はこの期間、それよりも素晴らしい光景を目にしてきました。まさに今こうしてあるように、朝鮮学校を中心として日本、海外にも広がる、朝鮮学校を愛し、守ろうとする太くて広くて固い絆、連帯の輪です。そしてなによりも子どもたちと若い世代の成長です。…70数年間の民族教育の中で、こんなにも長く辛い闘いを、若い世代が中心となって、たゆまず力強く推し進めてきた歴史があったでしょうか。こんなにも自分の尊厳を考えて、朝鮮学校のことを学んで、強く成長した青年たちがいたでしょうか。朝鮮学校という、私たちのいちばん大事な場所を主戦場にした日本政府はいつかきっと後悔すると思います。私たちはこの闘いで最後に絶対勝ちます。力強く闘っていきましょう」
会場には力強い拍手が響いた。
次に、リモートで参加していた東京会場から、「朝鮮学校『無償化』排除に反対する連絡会」の森本孝子共同代表が発言。
「“官”と“民”とがヘイトでつながる社会の中で、本当に日本人として恥ずかしいという思いをずっと抱いている。たぶんあちこちで“官”によるヘイトと、“民”からのむごい攻撃は続くと思う。その中でどう朝鮮学校を守っていくか。…これから私たちは文科省前での金曜行動に向かいます。ともに頑張りましょう!」
「朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪」からは藤井幸之助さんが参加。大学の非常勤講師として朝鮮学校や在日朝鮮人についても教えている藤井さんは、「日本の若い学生に朝鮮学校へ行ってもらい、共感を持って次の社会を作っていってもらいたい、それが自分の使命」だとのべた。
広島無償化弁護団の足立修一弁護団長は、「論理的に詰めていけば、我々の主張は認められるべきなんだけども、理屈じゃないところで、私たちが問題提起したことが受け止められない。朝鮮学校を負かせても世間が受け入れる、勝たせたら裁判官が叩かれる、こういう社会だから裁判所も動かないのだと思う。だから、私たちはこの社会を変えないといけない」と静かに語った。
在日本朝鮮人教職員同盟の慎吉雄委員長は、「100人が自分たちをいじめようと、一人の心のこもった温かい言葉を受け取った時、人は勇気が出るものです。10年間、たくさんの人たちに勇気を頂きました。日本の方々、南の市民団体の人々、そして弁護士の先生たちにもお礼を言いたい」と熱い感謝の意を伝えた。
●亡き弁護団長への思い
続いて、金敏寛弁護士が服部弘昭前弁護団長の逝去を伝えた。
「以前の弁護団長である服部弘昭先生が、昨年3月の地裁判決のあとに体調を崩し、今年9月下旬にお亡くなりになりました。服部先生は、無償化裁判を通して朝鮮学校に関わり始めたのではなく、弁護士になられた直後から何十年にもわたって福岡の朝鮮学校のために闘ってくれました。本当に残念ですが、服部先生の背中を追って、高校無償化だけでなく幼保無償化、そして朝鮮学校を取り巻く不当な状況を打開していこうと思います。引き続きご協力をお願いします」。金弁護士は途中で声を潤ませながらそうのべ、服部弘昭さんの遺族として参加した、次女である夏子さんにマイクを渡した。
服部弘昭さんは、朝鮮学校と子どもたちが大好きで、運動会などの学校行事に行くのをいつも楽しみにしていたという。夏子さんは、服部弘昭さんの遺影を持ちながら、「父は生涯かけて心の底から朝鮮高校の無償化を願っていました」と話し始めた。
「父は無口だし、家ではニコニコしているだけで、あまりどういうことをしているか語らない人でしたが、今日みなさんの言葉を聞いて、父の気持ちが私にも伝わってきました。父がやってきたことがいつか叶うことを心から願っています」
次に、九州中高の高級部生徒たちが舞台に立ち、代を継いで闘ってきた期間を振り返るとともに、参加者たちに感謝を伝えた。
「朝鮮学校無償化実現・福岡連絡協議会」の中村元氣代表が声明を発表。「生徒や保護者、私たちの声は裁判官の心には届かなかったのでしょうか。公正、公平な判断を旨とする裁判所までが朝鮮高級学校を差別し、傷つける判決に私たちの心は、またもや大きな驚きと怒りで一杯です」とし、ただちに上告して闘うとの意志を表明した。
●闘いの場は最高裁に
最後に、後藤富和弁護団長が発言。
「これから闘いの場は最高裁に移ります。ここで勝つためには社会をよくする、動かす必要があります。在日コリアンの皆さんに優しい街、差別のない街は、私たち日本人にとっても過ごしやすい社会です。私にも高校生、中学生、小学生の子どもがいます。この子たちに残したいのは、ヘイトや差別のある社会ではなく、多様性を認め合う優しい社会です。
最高裁、社会を動かすためになにができるか。今日ここで聞いた話、感じたことを周りの人に伝えて下さい。SNSで発信して下さい。その中で、皆さんもさまざまな差別を受けるかもしれません。でもそうやって声を上げていくこと、この空間をどんどん広げていくこと、そして多くの人を朝鮮学校に連れていくこと、これが社会を変えることだと思います。闘いはまだまだ続きます。でも必ず勝ちます」
今回の記者会見や報告集会では、「社会を変える」という言葉が何度も語られた。決して大きなことではなく、これまでの闘いの継続であり、合流してきた一人ひとりの行動から始められるものである―。後藤弁護団長は穏やかながら、固い意志と決意を持ってそれを伝えた。(文・写真:黄理愛)
※この日、発表された各声明の全文はこちらから