vol.36 闘いが“つむぐ”想像力
広告
拉致事件発覚の翌年、時の石原都政が枝川の東京朝鮮第2初級学校に立ち退き訴訟を起こした。
それを「勝訴的和解」に導いた新美隆弁護士は、かつて指紋押捺拒否裁判で金敬得弁護士が嗚咽しながら裁判官に向かい、「『なんで朝鮮人に生んだんだ!』と子どもに胸を叩かれる母親の気持ちが貴方に分かりますか」と叫んだ場面を若手弁護士に語り聞かせて、こう繰り返したという。「あの弁論で理論や理屈に魂が入ったんだ。君たちは裁判に魂を入れなければいけない」
幾度か裁判に「魂」が入る瞬間に立ち会った。その一つが昨年11月20日、広島高裁での高校無償化裁判の証人尋問である。
広島地裁の訴訟指揮は全国最悪だった。尋問は全員不採用、2017年7月19日、声も聞かず訴えを棄却した。「子どもの権利の問題やないか!」。飛び交う怒号、座り込む学生、両脇を支えられて退廷し、廊下で「絶対に諦めないから」と絶叫していたオモニ……。思い出しても震えがくる…。(続きは月刊イオ2020年12月号に掲載)
(写真)横断幕を持って裁判所に向かう朴陽子さん(左から2人目、写真はすべて広島市中区上八丁堀で2020年10月16日)
写真:中山和弘
写真:中村一成
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。