【イオ ニュース PICK UP】官民ヘイトの中でどう闘うか~東京で朝鮮学校差別反対集会
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●安田浩一さんが講演
東京の「朝鮮学校『無償化』排除に反対する連絡会」(以下、連絡会)が主催する「朝鮮学校差別反対集会―官民ヘイトの中で私たちはどう闘うか」が11月21日、文京区民センターとオンラインで行われ、ジャーナリストの安田浩一さんが「草の根ヘイトの実態」と題して講演を行った。
連絡会の森本孝子さんは、文部科学省前の金曜行動で、写真と動画を撮った差別主義者について触れ、「写真を消してほしいと要求したが、1時間ほどのやりとりの結果、逃げられた。こんなことがあちこちで起きている。草の根のヘイトについて、これから先どうしたらいいのか、考えていきたい」と問題意識を語った。
長年、ヘイトスピーチ、外国人労働者や沖縄をめぐる差別について取材を続けている安田さんがまず切り出した話題は、今年3月、さいたま市が埼玉朝鮮幼稚園へマスク配布を拒否した事件だった。
「行政が線引きして、特定の学校にマスクを配布しない許しがたいことが起きたが、批判の声が多くあがり、マスクは配布された。しかし本当の問題はそこから始まっている。なぜ市が配布したのかというと、抗議が面倒くさいからで、さいたま市は謝罪は一言もしていないし、差別があったことも認めていない。合理的な説明もなかった。マスク配布はよかったが、朝鮮学校にはいたずら電話や攻撃的なメールが出され、ネットの書き込みが急増した」
「埼玉朝鮮幼稚園には、国に帰れ、日本人と同じだと思うなよ、なぜ朝鮮学校で働いている人が行政に要求をするのか、など非難、批判、中傷、もっといえばヘイトスピーチが押し寄せてきた。
そこで学校側は、非通知電話は留守番電話にせざるをえなくなった。これがコロナ禍における差別。敵を発見して、吊るして叩く―。コロナという状況の中で差別と偏見が露骨に表出された。常にターゲットとなったのは、外国籍市民だった」
「私たちは、差別と偏見の壁を乗り越えることができなかった。メディアは、こぞって社会が分断されるというが、分断という言葉は、マジョリティの側の便利な言葉として使われている。分断という言葉は疑わしく、私はこの言葉をあまり信用していない。社会の分断線は、多数派、力の強いものが勝手に強いているものだ。ある意図をもった人たちが、勝手に分断線を強いるということが、起きている。
ある方が、命の線引きをされていると言ったが、今確実に命が線引きされている実感がある。マイノリティの存在が線引きをされていることを、きちんと考えなければならない」
また安田さんは、「差別主義者の差別と偏見のまなざしが、沖縄に向けられている」として、沖縄で見たヘイトの現実を写真を交えながら伝えた。そして、「沖縄への差別は、朝鮮半島全体、近隣諸国に向けられている」として、「かれらが今、力を入れているのは、9月1日の関東大震災時の朝鮮人虐殺の問題だ」と指摘した。
安田さんは、2017年以降、小池百合子東京都知事が東京・横網町公園での関東大震災時朝鮮人虐殺追悼式典に追悼文を送っておらず、追悼式典の隣では虐殺を否定する者たちによる集会が持たれていることに触れ、「官民はつねに連携しながら新しい偏見を生んでいる。発散されるヘイトの文言も問題だが、歴史が塗り替えられているが大きな問題だ」と深い憂慮を示した。
また、日本各地で朝鮮人強制連行や、日本の植民地支配の事実を記した記念碑が撤去されている動きに触れ、「差別主義者が騒げば文言が書き換えられ、碑が撤去される。私たちは、かれらに成功体験を与えてしまった。つまり差別主義者を放置、容認している。今こそ、私たちの社会が前提とすべき社会認識、歴史認識をゆるがず主張することが大切だ」と指摘したうえで、課題を次のように語った。
「差別する者が、恥ずかしいと思える社会をどう作るかが大切で、人種差別主義者やレイシストは解雇される―といったような、規範、ルールが必要だ。少数者がかわいそうだから必要なのではない、私たちの社会が壊れるから主張すべきだ。地域を壊さない、生きる権利を壊さないために、皆さんとともにがんばっていきたい」
●各地で支援の動き、続々
第2部は、「地域からの報告」と題して、4地域から朝鮮学校支援の活動報告があった。
「立川町田朝鮮学校 支援ネットワーク・ウリの会」の報告を行った猪俣京子さんは、西東京にふたつある朝鮮学校の運営が窮状に置かれた現実を前に、「朝鮮学校を支援する7つの団体が全面に立って緊急支援『ウリの会基金』を始めたことはよかった」と基金に812万円の支援が集まった喜びの報告を行った。
「4月の集会には、新聞雑誌の記者の方がたくさん来てくれ、10社が報じてくれた。チラシ8000枚を印刷したところ、全国から支援が寄せられ、97%が日本人でした。
これだけの支援に、見えていなかった人たちが見えてきました。ほとんどが朝鮮学校と関わりのなかった人、新しい人でした。私たちは、お金を集めているのではなく、人を集めている。多くの方が日本政府や司法、社会の差別への憤りと子どもたちを気遣う気持ちを書いてくれていました。
朝鮮学校の子どもたちも同じ市民で、本来が国が保障すべきなのに、正当な理由もなく差別している、権利の侵害に、沈黙していることは、国の差別を後押ししていることになる、寄付と支援という、ささやかな償いのつもりですと…。
このような気持ちを持った人は多いのではないのでしょうか。沈黙は罪だと思いながら、声を出せずにいる人たちがいます。こういう人たちが行動に移してくれました。多くの方々が子どもたちへの思いを書いてくれている。子どもたちに、学んでほしい、笑ってほしい、成長してほしい、と」
また、最後に「運営の危機は続きます。つくづくと思ったのは、朝鮮学校は同胞の皆さんの支えと努力で運営されているということ。子どもたちの数も減っていくなかで、安心して通わせるためにも公的支援が必要です。差別のない公的支援、差別のない日本社会が必要です」と継続した支援を訴えた。
続いて、「朝鮮学校とともに・練馬の会」の林明雄さん、東京朝鮮第6初級学校を支援する「だいろく友の会」の伊藤光隆さん、「東京朝鮮第4初中級学校を支援する区民の会準備会」の西澤清さん、「サランの会」の東矢高明さんらが活動報告を行った。
東矢高明さんは、「サランの会は来年で10周年を迎えます。10年近く活動してきて、先生、『あの人が今度、サランの会に来てくれた人?』と子どもたちが聞いてくれる。先生方の負担が大きくならないように、学校を第一に考えて、日常の授業やキャンプでの見守りをしています。朝鮮学校の子どもたちは、日本とコリアを結ぶつける架け橋になる可能性を秘めた子どもだと思います」と活動を振り返った。
最後に連絡会の長谷川和男さんは、「官民ヘイトのなかで、司法も敗訴の結果が出ている。日本社会全体を変えるためには、ヘイトに負けない地方の運動を巻き起こし、朝鮮学校を支え続ける闘いを一緒に作り続けよう」と呼びかけた。(文・張慧純)