「居場所のなさ」抱えて書く/【イオインタビュー】Vol.2 柳美里さん(作家)
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福島県南相馬市在住の作家・柳美里さんの『JR上野駅公園口』(2014年、河出書房新社)が昨年11月、全米図書賞の翻訳文学部門を受賞した。2015年に南相馬市へ移住し、18年4月から同市小高区でブックカフェ「フルハウス」を営みながら執筆活動を続けている柳さんを訪ね、今回の受賞や福島での暮らし、今年3月で発生から10年を迎える東日本大震災などについて聞いた。
―全米図書賞受賞、おめでとうございます。受賞の感想についてお聞かせください。
9月にロングリスト(最終候補を絞り込む前のリスト)が発表されて、ノミネートを知りました。さらにその1ヵ月後に発表されたファイナリスト(最終候補作)にも作品が入っていたので驚きました。
授賞式はリモート開催でした。「Yu Miri, Tokyo Ueno Station」と聞こえ、「えっ、名前呼ばれた?」と思ったら、パソコンの画面上で翻訳者のモーガン・ジャイルズが泣いていました。ほっとした、みなをがっかりさせずにすんだというのが正直な気持ちです。
―南相馬の人びとの反応はいかがでしたか?
受賞後、たくさんの人びとが「フルハウス」を訪れ、祝ってくれました。災害公営住宅に住む70代の方は、「震災以降、悲しいことやつらいことばかりだったけど、今回はうれしくて泣いた」と声を震わせながら喜んでくれました。地元の方々がこの作品を「おらほの物語」(自分たちの物語)だと言ってくれる。それがうれしかった。
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PROFILE
ゆう・みり●1968年、茨城県土浦市生まれ。神奈川県横浜市育ち。高校中退後、東由多加率いる「東京キッドブラザース」に入団。役者を経て、86年、演劇ユニット「青春五月党」を結成。93年『魚の祭』で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞。97年『家族シネマ』で芥川賞を受賞。著書に『フルハウス』(泉鏡花文学賞、野間文芸新人賞)『ゴールドラッシュ』(木山捷平文学賞)、『8月の果て』『ねこのおうち』『ピョンヤンの夏休み』『国家への道順』『JR品川駅高輪口』『JR高田馬場駅戸山口』など多数。本誌2010年1月号から17年1月号までエッセイ「ポドゥナムの里から」連載。2015年から福島県南相馬市に移住。18年4月、同市小高区の自宅でブックカフェ「フルハウス」をオープン。20年11月、『JR上野駅公園口』で全米図書賞翻訳文学部門受賞。