vol.40 国とは誇りであり、命 最後の原告、玄順任さんを悼む
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植民地時代は低賃金、重労働で使い倒して、戦争が終わったら利になることはみんなカットする。在日に年金出さへんのは卑怯や、不公平や!」
岩盤に爪を立てるような叫びが耳朶にこびり付いている。国籍を「理由」にした差別を裁判で問うた在日高齢者無年金訴訟の元原告団長、玄順任さんが昨年12月21日、94歳で死去した。
現在の韓国・光州市で1926年に生まれた。日本の収奪でやむなく渡日した父を追い、一歳八ヵ月で母らと海を渡った。その三年後、産後の肥立ちが悪かった母の療養で姉、弟と一時帰郷し、祖父母宅で七ヵ月を過ごした。これが玄さんの「原風景」となる。
「水路も小屋も田園風景も、ぜんぶ私の記憶の中にあります」。地主だった祖父は民族の歴史を語り聞かせた。「日本人に土地を奪われたこととか同じ話を毎日ね。『朝鮮人は他の国を侵略したり植民地支配したことはない。正しく、清い民族だ』って。あれが私に染みついてます」…。(続きは月刊イオ2021年4月号に掲載)
写真:中山和成
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。