【イオ ニュース PICK UP】入管法改正案取り下げ、廃案へ
広告
4月16日から国会で審議が続けられてきた出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正案について、日本政府・与党は18日、同法案を取り下げる方針を決めた。今国会での成立は見送られ、改正案は事実上の廃案となる見通しだ。
人権上、大きな問題がある日本の入管行政のあり方を改善するどころか、さらに悪化させる方向でまとめられている今回の改正案に対して、廃案を求める声は日増しに高まっていた。野党側の反対や国内外の広範な批判を受け、与党側が今国会での法案の成立を断念した形だが、法案取り下げで問題解決ではなく、今回の入管法改正の国会審議で焦点となったスリランカ人女性の名古屋入管での死亡事件の真相究明、現行の入管法の抜本的改正などが求められている。
今回の入管法改正案については内外から強い批判の声が上がっていた。主な問題点としては、▼難民申請中は強制送還されないという仕組み(送還停止効)を改め、3回目以降の難民申請者を送還対象にしていること、▼オーバーステイなどで退去強制令書を発付された外国人が自ら退去しないことに対し、刑事罰が適用される、▼逃亡の恐れがないと入管が認めた不法滞在者に対して、弁護士や支援者の監督を受けながら施設外で暮らすことを認める「監理措置」が設けるとしているが、誰がこの措置の対象となるかを決めるのは入管で、その基準もはっきりしていない、収容施設から出ても就労は認められず、生活手段が確保できない、▼収容について司法の関与がなく、収容期間の上限もないなどこれまで批判を浴びてきた収容のあり方が見直されていない、などだ。
入管法改正案は今年2月19日に閣議決定され、4月16日に国会で審議入りした。法案の国会審議に注目が集まったのは、名古屋の入管施設に収容されていたスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが今年3月に亡くなった事件が大きなきっかけとなった。
3月31日には、国連人権理事会の特別報告者が「国際的な人権基準を満たしていない」と改正案の再検討を求める書簡を日本政府に提出。その後、4月9日に法務省はウィシュマさん死亡の経緯に関する調査の中間報告を公表した。ウィシュマさんの死をめぐっては、収容中に体調を崩していたにも関わらず適切な治療が受けられていなかった可能性が高く、ウィシュマさんを診察した医師が仮放免を入管側にすすめていたことも報道を通じて明らかになったが、中間報告にはこのような事実が一切記載されなかった。
国会での審議入り直後から、在日外国人当事者や移住連をはじめとする支援諸団体は国会前でのシットイン(座り込み)など断続的に抗議活動を行い、法案の廃案とウィシュマさん死亡についての真相究明を訴えた。
国会内でも与野党の攻防が激化。野党側は10項目の修正案とともに、ウィシュマさん死亡の経緯に関する監視カメラ映像の開示を要求した。5月14日には与野党が修正協議を行ったが、与党側が映像の開示を拒否すると野党側は衆院法務委員長の解任決議案を提出。協議は決裂した。
一方、ウィシュマさんの遺族と支援団体は16日、名古屋市内でウィシュマさんの葬儀を行った。翌17日、遺族らは名古屋入管の幹部らと面会し、収容中の監視カメラ映像などウィシュマさんの死の真相に関する情報を提供するよう要請。翌18日には上川陽子法相と面会し、同様の点を改めて訴えたが、いずれも開示を拒否された。
改正案が取り下げられ、入管法の改悪は阻止されたが、これで幕引きとなってはいけない。そもそも現行の入管法自体に大きな問題がある。ウィシュマさんをはじめ大勢の収容者の心身を傷つけ、死に至らしめた構造は今なお健在だ。非人道的な現行法と入管行政が変わらなければ、これからも同様の悲劇は繰り返される。ウィシュマさん死亡事件の真相究明、現行法を政府・与党案とは別の方向で抜本的に改正すること、長期収容の見直しや収容施設内での収容者の処遇改善などが求められている。
「入管法改悪に反対する在日コリアンの声明」
在日朝鮮人有志も入管法改悪に反対するアクションを起こしている。
「入管法改悪に反対する在日コリアンの声明」が5月16日付で発表された。
https://zainichistatement.myportfolio.com/home
声明は、「今、日本社会で生きる移民・難民の方たちを取り巻く問題は、在日コリアンにとって決して他人事ではありません。入管の問題は在日コリアンの歴史とも密接に結びついているからです」「今回の入管法改悪問題は在日コリアンに対する日本政府の方針と密接に繋がり、両者ともに、現在進行形の日本の植民地主義・人種/民族差別(レイシズム)の現れだということができます」などとして、移民・難民の立場を一層厳しくする入管法改悪に反対を表明している。
入管法改正案は取り下げられたが、「現行の入管法には依然として問題が山積している」として、引き続き賛同人を募っている。(李相英)