【イオ ニュース PICK UP】東京高裁、130万円の支払い命じる
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ネット上のヘイトスピーチで
当時中学3年生だったコリアンルーツの中根寧生さん(18)が、匿名ブログに書かれたヘイトスピーチによって人格権を侵害されたとして損害賠償を求めていた訴訟の控訴審判決で東京高裁は5月12日、一審に続き「人種差別に当たり、人格権の違法な侵害」と認め、発信者の男性に慰謝料など130万円を支払うよう命じた。
同判決について原告弁護団は、「ヘイトスピーチについての賠償基準、判断基準を塗り替える画期的なもの」だと話している。
差別的な書き込みをしたのは、大分県在住の60代男性。男性は、2018年1月22日、「写楽…支那・韓国朝鮮の真実『写楽』ブログ」において、「見た目を誤魔化し名前なども成り済ます」「如何にもバカ丸出しで、面構えももろチョーセン人面」などと悪質な書き込みをネット上に発信した。
これは、前日の神奈川新聞で、中根さんが韓国籍と日本籍を持つ自身のルーツに触れながら、川崎市主催のイベントでラップで平和メッセージを作った記事を題材に書かれたものだった。
弁護団は、発信者情報開示の仮処分申請などを行い、発信者を特定。侮辱罪で刑事告訴したところ、同年12月20日に横浜地裁川崎簡裁が侮辱罪で9000円の科料の略式命令を出した。
さらに中根さんは、19年3月、①名誉棄損、②著しい侮辱、③差別に基づく人格権侵害を理由として300万円を求める民事訴訟を横浜地裁川崎支部に提起。20年5月26日に出された一審判決では、②③が認定。差別そのものが人格権侵害だと認定され、総額91万円の損害賠償が認められた。しかし、原告は名誉棄損と適切な損害額の認定、とくに差別的な書き込みをしたことへの加害者の反省を求め控訴した。
原告弁護団の神原元弁護士は、「本判決は、人種差別を『賠償額の算定要素』ではなく、違法性の根拠そのものとした点で画期的だった。京都朝鮮学校襲撃事件判決の論理を乗り越えるものだ」と語る。
ひとつの書き込みで130万円という高額な賠償が認められたことも特記すべきことだ。この点について原告弁護団の師岡康子弁護士は、「被害者は少年で、足掛け4年間、中学高校という非常な多感な時期に残酷な差別にずっと向き合わざるをえなかった。判決は本人の大きな二次被害も伴っている。違法類型として、差別自体が違法だということを認めさせるための大きな意義もある」と指摘した。
一方、止まぬネット上の人権侵害について、「日本に差別禁止法や人権救済機関があれば、15歳の少年が裁判を闘う必要もなかった。こんなことを繰り返すことは被害者にとって大きな被害。裁判で解決するのは大変だ。差別をなくすための報道をお願いしたい」と強調した。
“オモニ、矢面に立たせたくない”
実名公表した思い
被害を受けた当時、15歳だった原告は、現在大学1年生。
中1だった2015年11月と16年1月、ヘイトスピ―チを行う差別主義者が川崎市の桜本に来たことを受け、声をあげたものの自分や母への差別は強まり、生活は一変した。
救済を求めたたかいつづけた4年。5月12日の判決を機に、顔と実名の公表に踏み切った思いをこう語った―。「母親が集中して受けている被害を減らせる。顔と名前を出したことによって、被害と正義を訴えることでオモニのように差別を許さない仲間が増えると信じます」。
日本人の父親、在日朝鮮人の母親を持つ原告は、2月15日の意見陳述で、匿名の書き込みによって自分や家族が貶められた悲しみを裁判官に伝えていた。
「『写楽』というブログでは、『悪性外来寄生生物種」『人もどき』『見た目も中味ももろ醜いチョーセン人』などと書かれています。…僕は母が朝鮮人であることは自慢ではあるけれど、醜いなんて思ったことはない。母のことを持ち出して『素性なんてすぐにばれる』『通名などという「在日専用の犯罪用氏名」』と僕のことをまるで犯罪者のように書かれました。僕の名前は母と父が考えてつけてくれた。名前につけてくれた大切な思いを聞いて、…大切に思って生きてきました」(意見陳述から)
自身が決め、闘い勝ちとった判決。しかし、その苦しみを他の人たちに決して負わせたくないとの訴えも切実だった。
「警察での調書作成や、裁判のつど、自分の被害を説明しなくてはならなくて、差別によって胸が締め付けられるようで、ほんとにしんどかったです。思いだしたくないようなことを何度も伝えなくてはならないことは、ほんとにしんどかった。
他の人に裁判すればいいなんて、言えない。
本当に嫌でした。
差別の被害者が裁判に訴えなくても相談、救済される制度ができることを強く望みます。
インターネットもそうですが、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを本気で止めるルールが必要だと思う」
「実際このように司法判決がなされたことでインターネット上でのヘイトへの抑止効果もあると思っています。
これまでずっと顔を出して差別とたたかっているオモニがレイシストの的になり、防弾ベストを着ています。普通に暮らせる社会を心から望みます」(5月12日の記者会見で)。
一件のブログが差別をまき散らし、平穏な生活を破壊した。
幼い少年に、はかり知れない苦しみを背負わせた日本社会の責任は重い。人種差別を違法とする法制度の整備が急務だ。(瑛)