vol.6 単独事故は突然に
広告
単独事故は突然に(生野朝鮮初級学校付属幼稚班 金鮮一先生)
私が得意とする遊びは、戦いごっこ。オリニたちはいつも、悪役である私を倒そうと、必死に戦いを挑んできます。対する私は北斗神拳。かかってくるオリニたちの隙を見ながら指先でそっとつつくと、くすぐったさで「あべし!」と言いながら倒れていきます。文字通り赤子の手を捻っているのですが、立ち向かうオリニたちの兵法は実にさまざまで、時に一人で、時に複数人で、また、前後左右と私の死角を探りながら攻略法を探しています。そして、必ずしも真っ向勝負というわけではなく、私が気を抜いた時に突然襲い掛かって来ることもしばしば。実践というより実戦的に考え、行動しているようです。
幼児の力では成人男性を負かすことなど不可能だと思われがちですが、オリニたちが私を倒す方法が一つだけあります。
それは、身長差。私の身長180㎝に対し、激しい戦いを好む年長・年中児の身長は平均して110㎝。肩の高さは約80㎝。つまり、子どもが正面に拳を突き出すと、丁度私の急所と同じ高さなのです。
幸いにも、幼児が発達過程で「正拳突き」をすることはないのですが、事故はいつも突然やってくるもの。戦いごっこではなく何気ない瞬間にオリニがふと振り返ることで、たまたま通りかかった私のティンカーベルにフリッカージャブが打ち込まれる形になるのです。
悶・絶ッ!!
しかし、オリニたちに悪気はなく、ただの単独事故に他なりません。涙をこらえ、歯を食いしばり、平然を装いますが、体は「く」の字に折れ曲がったままなのです。
(金先生の回はおわり)