vol.43 「オモニは悪くない」 「新たなつながり」という“勝利”
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「仲間が増えたことを実感しました」――。画期的な勝訴から10日後、端末越しの声は力強く、そして安堵に満ちていた。中根寧生さん(2002年生)。川崎市・桜本出身の大学一年である。
日本人の中根正一さんと、在日朝鮮人三世の崔江以子さんとの間に生まれた。オモニの信条「丁寧」の寧、朝鮮語のアンニョンの寧を取り、寧生と名付けられた。出会いを丁寧に積み重ね、「安寧」な人生を送って欲しい。両親の願いが込められていた。
日立闘争以降の反差別運動の拠点として、「共生」の実践を積み重ねてきたのが桜本だ。「小学校の卒業式や中学校の入学式でオモニはとってもきれいなチマ・チョゴリを着ます。僕が地域を歩いていると『アンニョン』と保育園の先生や地域の人があいさつをしてくれます」(16年1月、反ヘイト集会でのスピーチ、神奈川新聞「時代の正体」取材班編『ヘイトデモをとめた街』より)。二つのルーツを周囲からも尊重され、文字通り「ダブル」として育ってきた。
その故郷が15年、差別・排外主義の標的になった。契機は「安保法制」に反対し、地域に暮らすハルモ二たちが「反戦デモ」を企画、地元商店街を数百メートル行進したこと。「平和」という普遍を求める行為がレイシストには「生意気」と映ったのだ。(…続きは月刊イオ7月号に掲載)。
写真:中山和弘
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。