【ニュース PICK UP】広島無償化裁判、最高裁が上告棄却—全国5訴訟終結、朝鮮学校側の敗訴確定
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国が朝鮮学校を高校無償化制度の適用対象から外したのは違法だとして、広島朝鮮初中高級学校(広島市)を運営する学校法人広島朝鮮学園と同校卒業生109人が原告となり、国に対して処分の取り消しや損害賠償を求めた訴訟(以下、広島無償化裁判)で、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は7月27日付で学校側の上告を棄却し、上告受理申立ても受理しないとする決定を下した。
これで、高校無償化制度からの朝鮮学校除外を「適法」と判断した一審、二審判決が確定した。
2013年1月の大阪、愛知での提訴を皮切りに日本全国5ヵ所で朝鮮高級学校の高校無償化制度からの除外の違法性を問うた訴訟(高校無償化裁判)のうち、広島を除く4訴訟【大阪、愛知、九州(福岡)、東京】では最高裁による上告棄却・上告申し立て不受理の判断が出ていた。2010年の高校無償化制度施行および朝鮮高級学校の除外から11年、提訴から8年半。大阪地裁での原告勝訴判決(17年7月28日)はあったが、国の朝鮮学校差別を追認する判決で一貫した一連の高校無償化裁判は朝鮮学校側の敗訴確定という結果をもって終結となった。
最高裁の上告棄却の決定を受けて、弁護団と広島朝鮮学園側はそれぞれ声明を発表した。
弁護団声明は、「国は、朝鮮高級学校には、朝鮮総聯の不当な支配が及んでいると強弁し広島地裁、広島高裁は、ハ規定削除の違法性の判断すらせず、安易に国の主張を認め、最高裁もそれに追従した」と司法の判断を批判。続けて、「在日朝鮮人や朝鮮高級学校をはじめとする朝鮮学校に対する国の政策が、差別的、排他的であることは、歴史が示すとおりである。朝鮮高級学校を無償化の対象としなかったことは、現在に至っても国が差別的な政策をとっていることの表れである。人権を護る最後の砦といわれる裁判所がこのような差別を正さなかったことは、絶望でしかない」としながら、最高裁のこのような判断によって「在日朝鮮人に対するさらなる差別が助長されるのではないかと強く危惧する」と懸念を表明した。
弁護団、学園側ともに、「裁判は終了したが、今後とも高校無償化制度の朝鮮高級学校への適用に向けて、在日朝鮮人を差別する政策がなくなるよう取り組んでいく」とのべた。
両声明の全文は以下のとおり。(相)
【上告棄却・上告不受理決定に対する広島朝鮮学園無償化弁護団声明
2021年7月29日
朝鮮学校無償化訴訟広島弁護団
2021年7月27日,最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)は,広島朝鮮学園が,下村文科大臣(当時)による広島朝鮮学園に対する就学支援金の支給対象校に指定しない処分(以下,「本件不指定処分」という。)は違法であるとしてその処分を取り消すとともに支給対象校に指定する処分を求め,元生徒らが国に対し,広島朝鮮学園が就学支援金の支給対象校に指定されていれば得られた利益(逸失利益)及び慰謝料の国家賠償を求めた訴訟につき,上告を棄却し,また,上告受理申立てを受理しないとする決定を行った。
文科大臣の本件不指定処分は,朝鮮高級学校を無償化制度から排除する意図に基づいて行われたとしか考えられない。本件訴訟を通じ、弁護団はこのことを確信している。
国は、不指定処分の理由について、①文科大臣自身、朝鮮高級学校の指定の根拠となる規定(いわゆるハ規定)そのものを削除したこと及び②朝鮮高級学校が、指定基準(いわゆる本件規程13条に適合すると認めるに至らなかった、と主張してきた。そしてハ規定の適用を削除したのは、ハ規定の適用が想定されるのは朝鮮高級学校だけであり、朝鮮高級学校は基準を満たさないので、ハ規定を残しておく意味がないのでハ規定を削除したとも主張してきた。
しかし、ハ規定に基づき指定される外国人学校は、朝鮮高級学校以外にも存在するし、また、将来的にハ規定によって無償化適用を受けようとする学校が出てくることも十分に考えられる。そのような中でのハ規定の削除は、朝鮮高級学校が無償化適用を永遠に受けられないようにするためとしか考えられない。また、文科大臣は、無償化指定の要件を満たさないので不指定にしたのではなく、要件を満たさないことを理由に要件そのもの(ハ規定)を削除したのであり、極めて理不尽で行政の恣意的な判断で不指定にしたとしか考えられない。さらに意見を聞くように求められている審査会の意見も聞くことなく文科大臣が不指定処分をしたのも極めて異例である。
このようにどう考えても首をかしげざるをえない処分が行われたにも関わらず、国は、朝鮮高級学校には、朝鮮総聯の不当な支配が及んでいると強弁し、広島地裁、広島高裁は、ハ規定削除の違法性の判断すらせず、安易に国の主張を認め、最高裁もそれに追従した。また、本件規程は、そもそも法令としての公布手続きを欠いているようであり、法規命令の性質をもたない単なる行政内部の審査基準にすぎないと考えられるほか、本件規程13条の規定ぶりから、指定の際の審査基準にはなりえないことを広島訴訟では、強く訴えた。これはまさに法令解釈に関する重要な事項を含むものであり、最高裁による判断が求められるものであるが、最高裁は判断をしなかった。最高裁は、責任を放棄したと言わざるを得ない。
在日朝鮮人や朝鮮高級学校をはじめとする朝鮮学校に対する国の政策が、差別的、排他的であることは、歴史が示すとおりである。朝鮮高級学校を無償化の対象としなかったことは、現在に至っても国が差別的な政策をとっていることの表れである。人権を護る最後の砦といわれる裁判所がこのような差別を正さなかったことは、絶望でしかない。最高裁のこのような判断に対し、在日朝鮮人に対するさらなる差別が助長されるのではないかと強く危惧する。
本件訴訟は終了したが、弁護団としては、在日朝鮮人を差別する政策がなくなるよう、取り組んでゆく決意である。
【上告棄却・上告不受理決定に対する広島朝鮮学園声明】
2021年7月27日付けで、最高裁判所第三小法廷(林道晴裁判長)から「上告棄却」「上告不受理」決定が出された。
「高校無償化制度」は、2010年にすべての高校生に学ぶ機会を保障するために制定された法律である。その制定過程を見ると、朝鮮高級学校も支給の対象とするように制度設計がなされていたことは明らかである。しかし、教育とは全く関係の無い理由で、朝鮮高級学校だけが不指定処分とされ、以後、申請することを不可能にするために根拠規定(ハ規定)が削除されてしまった。
このような不当な対応に対し、広島でも2013年8月1日に広島朝鮮学園が不指定処分の取消と義務付けを求める行政訴訟を、当時の卒業生と在校生が、高校無償化制度から除外されたことによって被った不利益に対する損害賠償請求訴訟(民事訴訟)を提起した。
これに対し、広島地方裁判所は、原告本人尋問も現地検証や専門家証人尋問も一切行わずに、2017年7月19日、不当判決を言い渡した。これに対し、広島朝鮮学園と原告109名が広島高等裁判所に控訴した。控訴審においては、原告本人尋問及び原告保護者の証人尋問は行われたが、2020年10月16日、広島高等裁裁判所は、一審の不当判決を維持する判決を言い渡した。これに対し、広島朝鮮学園と原告109名が最高裁に上告した。
今回の上告棄却・上告不受理決定によって、広島高等裁判所の不当判決が確定してしまったことになる。弁護団声明にもあるように、ハ規定削除には法的な問題があるにもかかわらず、そのことについて、最高裁も地裁、高裁と同様に判断することを避けている。
しかも、朝鮮総聯や朝鮮民主主義人民共和国との関係については、産経新聞の記事や公安調査庁の資料など全く根拠の乏しい証拠に基づいた判断がなされており、「人権の砦」であるべき最高裁判所がその職務を放棄したと言わざるを得ない。
私たち在日朝鮮人の権利闘争はこれまで続けられてきたことであり、これからも続くことである。ウリハッキョは民族の言葉や文化などを通して、子どもたちのアイデンティティを確立するために必要不可欠である。また、民族教育を受ける権利は国際人権規約や日本国憲法でも保障されている権利である。しかも、日本政府はこれまで5度にわたって国連から高校無償化制度を朝鮮高級学校に適用するように勧告を受け続けている。
しかし、日本政府は「高校無償化制度」だけではなく、「幼保無償化制度」からも朝鮮学校をはじめとする外国人学校を除外している。また、各種学校であることを理由に、新型コロナウイルス感染症に伴う学生給付金からも朝鮮大学校を除外している。このようなことは、「多文化共生」をめざす政策と相反する行為である。
私たちは、これからも、高校無償化制度を朝鮮高級学校に適用させるための取り組みを続けて行くことを確認する。
2021年7 月29日
学校法人広島朝鮮学園