【イオ ニュース PICK UP】“バンクシー超えるコンセプチュアルアート?”抗議上回る応援に支えられ―/表現の不自由展かんさい
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「表現の不自由展かんさい」(主催=表現の不自由展かんさい実行委員会)が7月16日~18日にエル・おおさか(大阪市)で開催され、3日間で約1500人の人びとが会場に足を運んだ。
不自由展は、開催を巡り、歴史修正主義者からの抗議が相次いだことで、会場側が「安全確保」を理由に会場予約を取り消すという事態が起きたが、実行委員会が6月30日に大阪地裁に提訴。7月9日に同地裁が展示会の開催を認め、7月15日には大阪高裁が会場側の即時抗告を却下したことにより、無事開催に至った。
同展の整理券は、16日、17日、いずれも正午には完売し、最終日は朝の9時半に売り切れるほど、多くの人びとの注目と関心を集めた。また、実行委員会は、在日同胞メンバーの名前の非公開や、入場時の荷物検査と金属検査、会場内に弁護団による「見守り隊」を配置するなど、徹底的な安全対策をとり3日間の開催を保障した。
展示会には13組の作家が、日本軍性奴隷制問題や昭和天皇の戦争責任、福島原発問題などを問う作品を出品。日本軍性奴隷制被害者を象徴する「平和の少女像」など、「あいちトリエンナーレ2019」への出品作品も多く展示された。
17日に行われたトークショーでは、グループZAZAの増田俊道さんと、サックス奏者のSWING MASAさんによる歌の披露、岡本有佳さん(フリー編集者)、平井美津子さん(中学校教師)によるトークが行われた。
岡本さんは、2012年、新宿ニコンサロンでの「慰安婦」写真展中止事件や東京都美術館でのミニチュア「平和の少女像」の撤去事件を機に、「知らないうちに検閲や規制で消されている表現物」があり、特に安倍政権以降は排外主義や性差別、日本の植民地支配責任、戦争責任の否定を背景とした不当な攻撃で表現が消されていること、「消されているもの」の多くが、社会的少数者に関わる表現だということへの危機感が、「表現の不自由展」の原点だと話した。
また、「『表現の自由』とは、表現をする側と受け取る側、双方にとっての権利であり、両者による情報伝達の場が保証されてこそ、表現の自由が守れるということが、展示会の一番大事なポイント」だとのべた。
最後に岡本さんは、展示会に携わったこれまでの活動を振り返り、「報道では妨害や攻撃ばかりが取り上げられているが、それ以上に連帯、応援の声が届いている。この社会に攻撃を上回るほどの力が、まだあるということを思い出さなくてはいけない」と呼びかけた。
続いて平井美津子さんが、教育現場での経験を語った。
『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』の著書がある平井さんは、子どもたちに歴史は英雄の話だけではなく、自分たちの昨日の出来事も歴史の一部で、「私たちが歴史の主役、社会を変革していく」身として先人の失敗を学ぶことの大切さを伝え、「日本目線だけでなく、相手の国の目線に立って考える」よう教えていると語った。
また、吉村洋文・大阪府知事の「さまざまな攻撃によって安全が保てないから会場利用許可を取り消さざるを得ない」という主張に対し、「本来であれば、卑劣な攻撃をしてくる側に対し規制することが府知事の務めなのではないか」と異を唱えた。
登壇者たちはみなユーモアいっぱいに思いをのべ、トークショーは笑いと活気にあふれていた。
攻撃を上回る応援、市民巻き込んだアートの威力
会場の外では、展示会「反対派」たちによる妨害街宣が行われ、警察による厳戒態勢が敷かれていた。一時は街宣車が警備エリアにハンドルを切り、カウンターたちに接近する場面もあった。
この日、会場に駆けつけた京都府内の大学生たちは、「反対派」の過激なスピーチを目にし、「彼らの主義主張に反するのであれば、同じ議論の場に立ち抗議をするべきだ。このようなヘイトスピーチを大音量で流すということはとても暴力的だし、かれらの正義感や、市民の共感を得ようとする気持ちは感じ取れない」と率直な感想を語っていた。
展示会には、社会運動に取り組んだり、社会問題、歴史問題に目を向けている人のみならず、芸大生をはじめ、「話題になっているから、どんな展示会なのか気になって来た」という若者まで幅広い層が足を運んでいた。
不自由展の美術を担当した実行委員の一人は、「展示会を開催することで、世間がこんなにも大騒ぎし、市民を巻き込んでいる―『表現の不自由展』そのものがバンクシーを超える、今世紀最大のコンセプチュアルアートなのではないか。外の街宣も含め、アートと捉えたら、なんともない。アートとは、ものごとの本質をとらえ、どのように表現するか―。不自由展自体が一つの表現になり、威力があるということだ。大阪での開催が大きな動きとして今後各地での開催につながっていけば」と前向きな思いを語った。
※愛知県名古屋市では、「あいちトリエンナーレ2019」で一時中止された企画展「表現の不自由展・その後」出展作品の展覧会が7月6~11日の日程で開かれていたが、8日、施設に届いた郵便物が破裂したことにより、会場が休館、事実上中止となった。
(文・写真:朴明蘭)