【ニュース PICK UP】「入管の調査報告書はまったく不十分」/ウィシュマさん死亡事件 NGOが合同会見、抗議声明発表
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NPO法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)、恣意的拘禁ネットワーク(NAAD)、NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ、外国人人権法連絡会の4団体が8月17日、東京都内で記者会見し、名古屋出入国在留管理局の収容施設に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが今年3月6日に死亡した事件に関する出入国在留管理庁(以下、入管庁)の調査報告書(8月10日公表)を「入管庁が自らの責任を回避し、『幕引き』を図ろうとするもの」「表面的かつ限定的な改善策の列挙に留まっており、死亡事件の原因究明・再発防止の検討としてまったく不十分」などと批判する声明を発表した。
参議院議員会館内で行われた「ウィシュマ・サンダマリ氏の死亡事件調査報告書に対するNGO合同会見」では、移住連が「二度と入管収容施設で生命が奪われることがあってはならない」と題した抗議声明を、恣意的拘禁ネットワーク、ヒューマンライツ・ナウ、外国人人権法連絡会の3者が「そもそもウィシュマ氏の収容は『法』に則っていたのか」と題した抗議声明をそれぞれ発表した。両声明とも問題の根本には入管の原則収容主義(全件収容主義)があり、問題の解決のためには入管の制度的・構造的改革が必要だと主張した。
ウィシュマ・サンダマリさん死亡事件調査報告書に関する声明
二度と入管収容施設で生命が奪われることがあってはならない
2021年8月17日、NPO法人 移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)
https://migrants.jp/news/voice/20210817.html
https://migrants.jp/user/news/538/q4i3kdri3klh0j4h_nx-2-2p5d3aded_.pdf 【PDF】
入管被収容者の死亡事件の政府調査報告書に対する抗議声明
~そもそもウィシュマ氏の収容は「法」に則っていたのか~
2021年8月17日、恣意的拘禁ネットワーク、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ、外国人人権法連絡会
https://hrn.or.jp/activity/20389
https://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2021/08/bf0c68c1fe1cae9fc7e132b61552525e.pdf 【PDF】
移住連の声明は事件の再発防止に向けて、以下の5点を主張した。
1.入管庁から独立した、外部組織が選任する「第三者委員会」を設置し、ウィシュマさん死亡の原因を解明・公表し、再発防止策を講じる必要がある。そのためにはまず、ビデオの全データをご遺族と代理人、国会議員などへ開示すべきだ
2.ウィシュマさんを死に追いやった入管庁の対応は、外国人差別に基づく虐待であり、現行法の罪にも該当する可能性がある。同じ悲劇を引き起こさないためには、当該入管庁職員、名古屋入管局長、入管庁長官、法務大臣に対して厳正な処分をすべきであり、入管庁職員による被収容者に対する虐待行為を法令による罰則をもって禁止することが急務である。
3.「報告書」にはDV被害に対する適正な分析がなされていないので、改めて専門家を交えて分析しなおす必要がある。DV措置要領の内容やあり方の見直しを含め、DV被害者保護について至急体制を整備すべきだ
4.現行の入管収容制度は、送還に応じない者を身体的・精神的に追い詰め、送還に応じることを強要するための手段として使われている。医療体制を早急に整備することはもとより、全件収容主義をただちに見直す必要がある。収容代替措置を優先し、収容期間に上限を定め、収容の可否は入管庁ではなく司法が判断すべき。入管収容施設では、適切な食事と居住空間、医療体制の強化など人間としての尊厳が保たれる収容環境を整備すべきだ
5.個人の人権よりも在留資格の有無を上位に置き、在留資格を持たない外国人を日本社会に対して害をなす者、排除すべき対象とみなし、その送還を至上の「使命」とする入管行政が、度重なる悲劇と人権侵害を生み出してきた。再発防止のためには、入管の制度的・構造的問題を抜本的に改革することが必要だ。移民・難民を管理の対象として捉える現行の入管制度を全面的に見直し、法改正と組織改革を行い、国際人権基準をふまえた難民認定制度と在留制度、収容制度へと転換すべきだ
恣意的拘禁ネットワーク、ヒューマンライツ・ナウ、外国人人権法連絡会の3者による声明は、今回の調査報告書は「退去強制令書が発付された者に対する原則収容主義を前提とし、その中で健康状態悪化時の対応がどうあるべきだったかが検討の中心となっている」が、「そもそもウィシュマ氏の収容が、日本が従うべき『法』である憲法および国際人権法にのっとったものかどうか、収容における強大な入管の裁量のあり方の検討はまったく抜け落ちている」と問題の所在について指摘。調査報告書が「表面的かつ限定的な改善策の列挙にとどまっており、本件死亡事件の原因究明・再発防止の検討としてまったく不十分。調査報告書において、ウィシュマ氏の人間としての尊厳を傷つける取り扱いが多数認められ、被収容者に対する処遇の改善も不可欠であるにもかかわらず、この点についての検討も不十分」だと断じた。
声明はまた、報告書が本件死亡事故の問題の所在を「入管収容施設の職員の意識、情報共有や医療体制などの処遇面に矮小化している」と指摘。真の原因究明・再発防止のためには、「処遇のあり方に加えて、その前提となる収容のあり方、入管の強大な裁量判断の是非が問われなくてはいけない」とした。そして、収容に関する憲法および国際人権法違反の点を詳述しながら、ウィシュマ氏の死亡は「人間を人間として扱わない、憲法および国際人権法に反する恣意的な収容がもたらした結果である」ことを明らかにした。そのうえで声明は、収容施設内の殊遇改善は必要であるとする一方、より根本的な問題として、「処遇の前提としての収容そのものが、強大な入管の裁量によって自由になされてしまうこと」を挙げた。
この日の会見では、各団体の代表からそれぞれの声明に関する説明があったのち、質疑応答が行われた。
移住連代表理事の鳥井一平さんは、「報告書を読めば読むほど怒りがわいてくる。われわれはこの報告書を新たなスタートにしたい。よりよい社会を求めるために、この報告書を徹底的に精査していく。ビデオ映像の全面開示を求めて、真相解明を徹底的に行っていく。このことがよりよい社会を作っていく新たなスタートになる」とのべた。
恣意的拘禁ネットワークの浦城知子弁護士は、報告書で挙げられている5つの改善策のうちの1番目の「全職員の意識改革」について、「意識改革は必要だが、それだけでは問題は解決しないというのは過去の経験からも明らか」と指摘。今回の報告書の問題点は「外国人の収容ありきという原則収容主義が前提になっていること」であり、「いったん収容した以上、出すも出さないも入管の自由、判断次第という現在の法制度がウィシュマさんの救済を妨げた」とのべた。「出すも出さないも入管の自由という強大な権限が、外国人収容者に対する差別的な意識を生み、入管職員たちの非人道的行いにもつながっている。今こそこの恣意的拘禁をあらため、収容の要件や第三者によるチェック機能を導入すべきだ」(浦城さん)。
ヒューマンライツ・ナウ事務局次長の小川隆太郎弁護士も、入管の強大な裁量が認められた収容という分野で被収容者の命を守るためには、収容の理由について入管側に説明を求め、その説明が妥当なものか第三者が判断するという仕組み=司法審査を導入することが必要不可欠だと強調。司法審査の導入を求める根拠は、日本も批准している、法的拘束力を有する国際人権条約である自由権規約にあるとのべ、「今回の調査報告書自体が司法審査導入の必要性を基礎づける立法事実になる」と付け加えた。
小川弁護士はさらに、ウィシュマさん死亡の問題は「名古屋入管の現場の問題ではなく、入管の組織的な判断」だと指摘。今回のような悲劇を防ぐには、「組織的な改革、制度変更が必要不可欠」だとのべた。
外国人人権法連絡会事務局長の師岡康子弁護士は、「外国人は共に生きる仲間、同じ人権を持つ人たちではなく、差別して監視して追放するという政策自体が問題だ。このような外国人政策の根本を今回の問題は問うている」とのべた。
同連絡会共同代表の田中宏さんも、「かつての法務省入国参事官の池上努が本の中で、外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由だと言った。かつての入管の幹部が言い放ったこの言葉と、その後の入管行政の間にどれだけ距離ができているか関心があったが、今回の事件を見て、結局はなにも変わっていないと言わざるを得ない。人間を管理するという思想が根本的に間違っている」と話した。
鳥井一平さんは「ウィシュマさん死亡事件のようなことを起こさせないためにも入管法改正が必要だという論法を立てているが、まったくおかしな話だ」と日本政府、入管側の姿勢を一蹴。「なぜこの30年以上にわたって大勢の非正規滞在の人たちが長期収容されてしまっているのか、この機会に今一度考えなおそうというのが私たちの立場。入管の在り方そのものについて考えないといけない」とのべた。また、今後の活動については、「入管法改正によってどのような生活領域、労働領域に影響が出るのかといったことをあぶり出す取り組みを支援団体としてやっていきたい」、メディアに対しても「よりよい移民社会とは何なのか」「政府に対してどういうことを求めていかなくてはいけないのか」をともに検討していこうと呼びかけた。
移住連の鈴木江理子副代表理事も、今回の調査報告書を通じて、「収容は被収容者を追い込み、送還させるために行われているということがあらためて明らかになった」と指摘。「私たちが目指すのは、移民・難民の方々が在留資格がなかったとしても、国際人権基準にのっとった形でこの社会の中で受け入れられること。今回のような悲劇を生み出してしまった根本原因である日本の移民・難民政策そのものを見直さなくてはいけない」とのべた。(文・写真:李相英)