【イオ ニュース PICK UP】学生支援緊急給付金、対象外の朝大生らが永田町で訴え
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日本政府が昨年5月に創設した「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」(以下、給付金)の支給対象から朝鮮大学校(東京都小平市)の学生が除外されてから1年あまりが過ぎた。
今年2月には国連・人権理事会の特別報告者4人が日本政府に共同書簡を送り、「特に朝鮮大学校のマイノリティの学生を差別していることを懸念する」と指摘。
加えて「このような排除は、これら学校の制度的自律性を損なう恐れがあ」り、「かれらの民族的、種族的、文化的および言語的アイデンティティの促進を手助けする教育へのアクセスをさらに危うくする」ものだと強く非難した。しかし、日本政府は「差別にはあたらない」との主張を変えず是正の姿勢も見せていない。
政府の無策について声を上げようと、9月7日、立憲民主党の「外国人受け入れ制度及び多文化共生社会のあり方に関するPT(プロジェクトチーム)」が主催する集会が東京・永田町の参院議員会館で持たれた。当事者である朝鮮大学校の学生が給付金の支給を切願し、各界各層の識者・専門家、メディア関係者、そして政府からは文部科学省と外務省の職員が参加した。
はじめに、同PTの座長を務める石橋通宏参議院議員があいさつし、「新型コロナの影響で困窮しているのはすべての子どもたち。朝鮮大学校だけが排除されていることに合理性はない」と強調した。
続いて、関係者からのヒアリングが行われた。まず、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」の藤本泰成事務局長が発言。
「日本政府は再三にわたって、“朝鮮学校が各種学校だから制度上仕方のないことで差別にはあたらない”という旨の発言をしているが、これは行政の不作為以外の何物でもない。なぜ朝鮮学校が各種学校になっているのか、その歴史を問わずして差別を正当化することはやめにしてほしい。それは国連が言う『植民地支配に由来する差別』そのものだ」と政府の姿勢を痛烈に批判した。
現役の朝鮮大学校生も登壇した。4年生の康明淑さんは「この制度は困窮する学生に、一律に学びの継続を支援するものだと聞いていた。なぜ私たちは、いつも支援の対象外となってしまうのか」と訴えた。
また、「コロナによる経済的影響が人々の属性を問わず等しく降りかかる中、給付金対象を各種学校か否かで線引きするのは人権侵害だ」と主張。同時に、これはただの金銭問題ではなく、「当たり前の『平等』という形で示される、私たち在日外国人の尊厳の問題」であると伝えた。
その後、評論家の佐高信さん、一橋大学名誉教授の田中宏さん、同志社大学教授の板垣竜太さんらが発言。各界各層から賛同のメッセージもよせられた。
ヒアリングのあと、政府担当職員への答弁が行われた。PTは事前に質問事項を提出。
―国連特別報告者は、給付金からの排除によって民族教育施設で学ぶ朝鮮大学校生の学びの継続が危ぶまれると懸念しているが、この点について日本政府の見解を問いたい
―給付金からの朝鮮大学校生除外は、政治的・外交的な背景のもと同校だけを狙い撃ちした排除ではないかとの指摘について見解を問いたい
など5点の質問事項が挙げられ、会場で回答を求めた。
文科省の高等教育局学生・留学生課視学官は、「決して朝鮮大学校の学びを否定するものではないし、困っている人がいることを否定するものではない」としつつも、「学びの継続が危ぶまれる点については、だからと言ってじゃあ支援の対象にできるかどうかとなると制度の要件の話になってきてしまう」と返答。
次いで、「日本人の学校とかも対象から外れているところはそれなりにたくさんあると思う。民族がとか、国籍とか、国連がとか、差別がとかっていうのはちょっと、なんでそんなことになるのかなという気持ち」だとこぼした。
外務省の総合外交政策局人権人道課長代理も、「専修学校や各種学校に通う学生―日本人であるか外国人であるかにかかわらず―は現行制度にあてはまらないからいずれも対象外と伝えている。恣意的な人種・民族または国籍を理由にした差別には相当しない」と回答。関係者や当事者が真摯に伝えてきた言葉の意味を何ひとつ理解していないことが露呈した。
外務省職員はさらに、「国連人権理事会の特別報告者の見解が国連やその機関である人権理事会の見解ではない」「特別報告者の見解は国に対して法的拘束力を有するものではない」「特別報告者にもいろんな調査のスタイルや思想的なバックグラウンドがある」「特別報告者が出す勧告が必ずしもすべて正しいかと言われると、中身に応じてしっかり吟味していかないといけない部分がある」と共同書簡の内容を非常に軽んじる発言が続き、参加者たちからは非難や呆れ、失望の声が集中した。
座長の石橋議員は文科省の職員に対し、「制度の対象外になっているのは朝鮮大学校だけではないと言うために水産大学校などを例に挙げているが、それは違うと去年からずっと議論してきたでしょう。朝鮮大学校の場合は、子どもの頃から一貫して公的な支援から排除され続けてきている、そこは並べたらいけないと言ってきたはずだ。きちんと把握しないと」と苦言を呈した。
また、外務省の職員にも「国連のシステム、4人の特別報告者のバックグラウンドをみんな否定するのか。都合のいい日本独自の外交はやめにし、共同書簡を真っ先に真摯に受け止めて対応するのが本来のあるべき姿ではないのか」と怒りをにじませた。
集会では、萩生田光一文科大臣と茂木敏充外務大臣あてに要望書も提出された。朝鮮大学校職員と学生の代表は担当職員に対し、「国連特別報告者の共同書簡の趣旨を履行し朝鮮大学生を『学生支援緊急給付金』の対象とするよう求める要望書」を手渡した。
会場では、2点の要望内容―▼「給付金」施策が終了したとはいえ、朝鮮大学校生を施策の対象とし、「給付金」を遡及的に給付すること、▼感染拡大に歯止めがかからず、学生の学びの継続が引き続き危ぶまれている状況において、困窮学生への救済策が追加的に実施されるべきであり、その際、朝鮮大学校生や外国人留学生への公平性を担保すること―が読み上げられた。
集会後、朝鮮大学校の関係者と学生らによる記者会見も行われた。崔太晟さんは、「日本政府はこの問題を形式的に終了させようとしている。この結果には憤りをも越え言葉すら出ない。平和の祭典・オリンピックが日本で行われたが、自分たちと違うものを排除し、消し去ることによって形式的にみんな同じであり平等が実現したとすることが平和なのか」と悔しさをにじませた。(文・写真:黄理愛)