大阪地裁勝訴判決はいかに生まれたのか―無償化連絡会・大阪 第5回オンライン学習会
広告
朝鮮高級学校無償化を求める連絡会・大阪(無償化連絡会・大阪)主催の第5回オンライン学習会「【対談】第一審勝訴に導いた専門家たち」が9月30日に行われた。
2010年4月に施行された高校無償化制度から朝鮮高級学校が排除され、全国5ヵ所で裁判が行われてきたが、勝訴判決が出たのは大阪地裁のみ。文部科学大臣の不指定処分を違法であるとして取り消し、朝鮮高校を制度の適用対象として指定するよう命じる画期的な判決はどのようにして獲得することができたのか。大阪訴訟に当初から関わり、意見書を執筆した田中宏さん(一橋大学名誉教授)と伊地知紀子さん(大阪市立大学教授)、弁護団団長の丹羽雅雄さんの3人がパネリストとして出演し、訴訟提起前後の活動、意見書の内容、勝ち取った第一審判決の意義などについて話した。コーディネーターは金英哲弁護士、司会は金星姫、任真赫両弁護士(いずれも大阪弁護団)が務めた。
裁判官動かした熱意
学習会では、2010年4月の制度施行→朝鮮学校に対する審査手続きの凍結→12年12月の自民党による政権奪取→翌年2月の文科省令改定による規定ハ削除という事態を受けて、大阪の当事者(朝鮮学園)・弁護団、支援団体の3者がどのようにたたかってきたのか、3者による学習会から始まって、12年3月の無償化連絡会大阪の結成、13年1月の提訴、19回におよぶ弁論期日、17年7月28日の地裁全面勝訴判決にいたるまでの経緯を時系列で振り返った。
2011年7月から毎月1回のペースで3者による学習会を開催してきたことについて丹羽さんは、この取り組みを通じて「裁判の性格、争点などの本質的な事柄に対する認識を共有し、信頼関係を構築してきた」とのべた。また、無償化連絡会・大阪の結成がその後のたたかいに大きな影響を与えた点も強調した。
学習会では、田中、伊地知両氏が、自身が執筆・提出した意見書について発言した。
田中さんの意見書は、朝鮮学校が歴史的存在であること、子どもたちの教育権、無償化法の構造、拉致問題を利用したバッシング、朝鮮学校が政治・外交的理由によって除外された経緯とその不当性などを実証的にのべている。
伊地知さんも、大阪府下の朝鮮学校の児童・生徒の保護者を対象にしたアンケート調査の結果とそれを基にした意見書の概要について説明した。伊地知さんは、▼保護者は国籍、職業、意識など多様な背景を持っており、▼保護者が子を朝鮮学校に送ってよかった点として「民族性と母国語の習得」を一番に挙げている、▼朝鮮学校はコミュニティとしての重要性も持っている、▼日本の地域住民による支援団体がいくつも立ち上がっている、▼「子どもたちが健やかに育つ場として朝鮮学校がいかに重要か」ということを裁判官に向けて示せたとのべた。丹羽弁護士も、すべての保護者に対するアンケートを実施したことは画期的で、裁判官に与えた影響は大きかったと評価した。
学習会では、勝訴判決言い渡し当日のことも語られた。伊地知さんは判決に接した際の心情について、「どうしたら勝てるのか、何をすれば勝てるのかを常に考えてきた。可能性は市民の力で作るしかないということを実感した」と語った。また、判決は高裁でひっくり返されたが、「勝ったという事実とそれが持つ重要性は継承していかないといけない」とのべた。田中さんも、「全国の5つの弁護団のうち、模擬裁判までやったのは大阪だけ。原告側の熱意が裁判官の心を動かしたのではないか」と勝訴判決を導いた要因についての見解をのべた。
勝訴判決を活かすためには―
その後の質疑応答では、「大阪地裁勝訴判決とその他の敗訴判決を分けた要因」は何かなどの質問が寄せられた。丹羽弁護士は、地裁が規程13条適合性の問題について、財産目録、財務諸表、理事会開催、府知事の立ち入り検査で法令違反がないなどの点がクリアされていればOKで、その他の事情については裁判所が個別に判断して問題なしとしたことが大きかったとのべた。「不当な支配」の問題についても、「地裁は国家権力の著しい介入につながる問題について文科大臣の裁量はないと判断した」と指摘した。
大阪地裁判決を今後に活かしていくためにはどうしたらいいのかという問いについては、伊地知さんが「朝鮮学校がある地域にいる大学の研究者らを巻き込んで朝鮮学校側の声をきちんとした形にしてさまざまな方法で発信していくことが大事」と指摘。「今回のアンケート調査は運動としても応用できると思う」とのべた。
田中さんも、「差別と人権の問題で日本がどれだけおかしいか、国際的な目を通じて知っていくしかない。自民党政権でも民主党政権でも高校無償化はだめだった。ここに問題の根深さがある。規定ハの復活を求める運動をするというのも可能性としてある」などとのべた。
丹羽さんは、▼21世紀の国際的な人権の潮流をしっかりと見ること、▼マイノリティ間のコミュニティを作り、つながること、▼一審勝訴判決時に生まれた共感をいかに広げ、したたかに楽しく運動を続けていけるか、などと話した。
学生支援緊急給付金
対象外の朝大生らが永田町で訴え
日本政府が昨年5月に創設した「『学びの継続』のための学生支援緊急給付金」(以下、給付金)の支給対象から朝鮮大学校の学生が除外されてから1年あまりが過ぎた。今年2月には国連・人権理事会の特別報告者4人が日本政府に共同書簡を送り、「特に朝鮮大学校のマイノリティの学生を差別していることを懸念する」と指摘。しかし、日本政府は「差別にはあたらない」との主張を変えず是正の姿勢も見せていない。
政府の無策に声を上げようと、9月7日、立憲民主党「外国人受け入れ制度及び多文化共生社会のあり方に関するPT」が参議院議員会館で集会を開催した。はじめに、同PT座長の石橋通宏参議院議員、「朝鮮学園を支援する全国ネットワーク」の藤本泰成事務局長があいさつした。続いて国際人権法専門の寺中誠さん(東京経済大学)が基調報告を行ったあと、朝鮮大学校教員と学生の代表が「国連特別報告者の共同書簡の趣旨を履行し朝鮮大学生を『学生支援緊急給付金』の対象とするよう求める要望書」を文科省・外務省の職員らに手渡した。
要望書では、▼「給付金」施策が終了したとはいえ、朝大生を施策の対象とし、「給付金」を遡及的に給付すること、▼感染拡大に歯止めがかからず、学生の学びの継続が引き続き危ぶまれている状況において、困窮学生への救済策が追加的に実施されるべきであり、その際、朝大生や外国人留学生への公平性を担保すること―が求められた。
現役朝大生の康明淑さん(4年)は「なぜ私たちはいつも支援の対象外となってしまうのか。コロナによる経済的影響が人々の属性を問わず等しく降りかかる中、給付金対象を各種学校か否かで線引きするのは人権侵害だ」と主張。同時にこれは金銭問題ではなく、「当たり前の『平等』という形で示される、私たち在日外国人の尊厳の問題である」と伝えた。
集会では他にも評論家の佐高信さん、一橋大学名誉教授の田中宏さん、同志社大学教授の板垣竜太さんらが発言。各界各層から賛同のメッセージもよせられた。