vol.47 狼や 見果てぬ夢を 追い続け
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狼や見果てぬ夢を追い続け―
今年の8月15日に観たドキュメンタリー『狼をさがして』(金美禮監督)。ラストに浮かぶこの句に胸を掻き毟られた。詠み人は大道寺将司。1974年8月30日、東京・丸の内の三菱重工本社前で爆弾を炸裂させ、結果的に8人を殺害、385名に重軽傷を負わせた大事件の主犯である。
「東アジア反日武装戦線“狼”」を名乗っていた彼らはまた、朝鮮植民地化と南北分断、経済侵略の責任を引き受け、在日朝鮮人を見つめ、朝鮮に応答しようとした者たちだった。
大道寺は48年、「北海道」の釧路に生まれた。政治の季節に多感な時期を過ごした彼は、従兄の太田昌国(『「拉致」異論』)の影響を受け、世界の変革への思いを研ぎ澄ます。「アイヌモシリを侵略した入植者の末裔」が、おそらくは生涯にわたる彼の自己規定であり原罪認識だった。
安保闘争の70年、法政大学に進学する。2年前には金銭トラブルでヤクザ2名を射殺した金嬉老が、静岡の温泉旅館で人質を取り、命がけで民族差別を告発した。70年には華僑青年闘争委員会が、中核派などの新左翼党派を「政治的利用主義」と激越に批判、絶縁を宣言した。
社会変革を叫び在日外国人を運動に糾合する一方で、民族問題や反入管法闘争には冷淡な姿に、50年代の反米武装闘争に朝鮮人を動員し、その歴史を総括しない日本共産党の厚顔無恥を重ねたのだ。念仏のように階級闘争と対権力を唱えることに自足し、日本国民である自らの恥や責任を見つめない日本左翼、リベラルの欺瞞が問われた時代だった。
大道寺らはノンセクト系の研究会を立ち上げ、朴慶植の『朝鮮人強制連行の記録』などをテキストに日本の責任を見つめていく…。(続きは月刊イオ2021年11月号に掲載)
写真:中山和弘
なかむら・いるそん●1969年、大阪府生まれ。立命館大学卒業。1995年毎日新聞社に入社。現在フリー。著書に「声を刻む 在日無年金訴訟をめぐる人々」(インパクト出版会)、「ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件――〈ヘイトクライム〉に抗して」(岩波書店)、「ルポ思想としての朝鮮籍」(岩波書店)などがある。『ヒューマンライツ』(部落解放・人権研究所)の「映画を通して考える『もう一つの世界』」を連載中。