【イオ ニュース PICK UP】ネット上の匿名ヘイトスピーチ、損害賠償求め提訴
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川崎市ふれあい館館長の崔江以子さん
社会福祉法人・青丘社が運営する施設「川崎市ふれあい館」の館長を務める在日朝鮮人女性・崔江以子さん(48、神奈川県川崎市在住)が11月18日、インターネット上で自身に対する誹謗中傷・差別投稿を繰り返した北関東在住の40代男性に対し、305万円の損害賠償を求める訴訟を横浜地裁川崎支部に起こした。
訴状によると、男性は2016年6月14日、自身が運営するブログ「ハゲタカ鷲津政彦のブログ『愛する日本国を取り戻す!!』」にアップした「崔江以子、お前何様のつもりだ!!」と題したエントリで、川崎市内で行われたヘイトデモに抗議する崔さんについての記事を引用。「日本国は我々日本人のものであり、お前らのものじゃない!『外国人(在日コリアン)が住みよい社会』なんて、まっぴらごめんだし、そんな社会は作らせない。思い上がるのもいい加減にしろ、日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」などと書き込んだ。
崔さんは同年9月16日、法務省人権擁護局に相談、人権侵犯事件として救済の申立を行い、同ブログを含めた2件のブログ記事に対して削除を依頼した。法務局はこの投稿が人権侵犯事案にあたると判断。請求を受けてブログ管理会社が10月に投稿を削除した。しかし男性は投稿が削除されたことで崔さんを逆恨みし、同年10月30日から2020年10月31日まで約4年にわたり、ブログやツイッターで「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などと崔さんを誹謗中傷する書き込みを繰り返した。
これらの行為に対して、崔さんは21年3月に発信者情報の開示を請求。発信者の住所、氏名を開示させ、投稿した男性を特定した。崔さん側は16年6月の投稿(「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」)が、ヘイトスピーチ解消法が定める「地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」にあたると指摘。ブログ管理会社による投稿削除の後に行われた男性の書き込みは名誉毀損にあたり、それぞれ精神的苦痛を受けたと主張した。
弁護団によると、男性は崔さん側との手紙のやり取りの中で自身の行為を認めて謝罪したものの、反省がみられないため提訴に踏み切った。
18日の提訴後、原告の崔さんと代理人弁護士らが川崎市役所で記者会見を開いた。
弁護団の神原元弁護士は、「日本では現行法上で人種差別が違法だということが必ずしもはっきりと示されていない。ヘイトスピーチそのものが違法なのだということを社会的に確立し、判例としても確立していくことが今回の裁判の意義だ」と指摘。今回の「ハゲタカ鷲津政彦のブログの文章は崔さんに対する差別的言動であると同時に、社会全体に対して外国人に対する差別的言動を助長する文章であることは間違いない」とのべた。
師岡康子弁護士も、「やったことに対して責任を取らせるというのがこの裁判の趣旨」だとしながら、「在日、しかも女性である崔さんが攻撃の的となっている。日常生活でも恐ろしい思いを続けており、家族にも影響が及んでいる。削除要請だけでは問題が解決しないケースで、このまま放置できないと考えた」と話した。
崔さんは自らの思いを次のようにのべた。
…
表現は自由なものであるだけではなく、責任がともなう。差別をしたらその責任をとらなくてはいけないという司法判断を求めてこの裁判を起こした。ハゲタカ鷲津政彦が言った「祖国へ帰れ」という言葉は、私にとって存在を否定される言葉だ。ヘイトスピーチ解消法ができて5年経っても、川崎で条例ができても、帰れという言葉は野放しのまま。ヘイトスピーチが違法だということがしっかり司法の場で示されることで、解消法や市条例の運用の大きな力になり、ヘイトスピーチが野放しにされない社会になってほしいと願っている。
李信恵さん、辛淑玉さん、フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の原告女性は、みんなたたかって判決を勝ち取ってきた。今年5月には息子の寧生も判決を勝ち取った。私も司法の場で差別を断罪する判決を勝ち取り、包括的な差別禁止法、そしてその法を土台とした国内人権機関の必要性をしっかりと発信していきたい。
ネット上の差別書き込みと向き合う時は孤独だが、今回裁判を起こすことができたのは私が一人ではないから。これから始まる裁判は2次被害もともなうものになるが、司法を信じて、仲間を信じて頑張っていきたい。
市民の皆さんには、市民生活に欠かせないツールであるネットの中で匿名に隠れた差別書き込みが野放しにされ、それに対応する策がないということ、それによって被害が生じているということをぜひ知っていただきたい。…
崔さんはこれまでも、「極東のこだま」を名乗るTwitterアカウントに誹謗中傷や暴力を示唆する書き込みをされたり(2019年12月に川崎簡易裁判所が罰金30万円の略式命令)、職場に脅迫状を送られたり(脅迫罪で刑事告訴、現在捜査中)するなど数多くの被害に遭ってきた。会見では、崔さんが外出時に防刃ベストをつける生活を強いられていることも明かされた。
弁護団によると、ハゲタカ鷲津政彦の件と並行して他の発信者情報開示請求も行っているという。(文・写真:李相英)