vol.1 優しいウェハルモニの記憶とともに
広告
筆者●李香愛先生(41、西東京朝鮮第2初中級学校 教員)
1年間で、ひらがな、カタカナ、漢字、そしてウリマルの子母音、パッチム…たくさんのことを日に日に吸収していくウリハッキョの1年生。中でも児童たちは、21個もあるウリマルの母音に悪戦苦闘する。同じ音に聞こえても、微妙な口の形の違いから生まれる美しい響きをどう習得させるのか。
1年生の担任を受け持ち3年目となった今、改めて感じるのは、朝鮮学校の教科書はよくできているなあということ。아이(子ども)の「ㅏ」、어머니(母)の「ㅓ」、 오이(キュウリ)の「ㅗ」、우유(牛乳)の「ㅜ」…という具合に、10個の基本母音はそれぞれかわいいイラストと口の形が描かれている。それを何度も復唱しながら習得していくのだ。
ウリマルの書き取りで머리(頭)を“모리”と書いてしまった児童に対し、「それじゃあ“森”になっちゃうよ。오이のㅗじゃなく、어머니 のㅓだよ!」と子ども同士が指摘する姿は何ともほほえましい。
「외할머니가 오십니다」(母方の祖母が来ます)という単元がある。合成母音「ㅚ」を扱う内容だ。新幹線のホームで、大きな荷物を掲げたウェハルモニと、嬉しそうに走り寄る孫のイラストが描かれている。
「ウェハルモニの荷物の中身は何かな?」という問いに、服やおもちゃだという児童もいればお餅や果物、キムチだという児童もいて面白い。ウェハルモニの愛はどの家庭にも共通するものがある。
次の日、ある児童が嬉しそうにこう話してくれた。
「선생님、래일 외할머니가 오십니다!」―
学芸会を見に、おばあちゃんが水戸からはるばる町田へ来てくれるのだという。習ったばかりの不慣れな発音で、それでも正確に「ㅚ」と発した児童の口元が目に焼きついて離れない。
「ㅚ」…この微妙で美しいウリマルの発音は、優しいウェハルモニの記憶とともに、児童たちの口元に、そして心の中に染みついていくのだ。