vol.3 声は、必ず誰かに届く― 伊藤詩織さん、高裁でも勝訴
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「投壜通信」――難破船に乗る者が、沈みゆく船の中で大切な人に宛てて手紙を書き、壜に詰めて海に投擲する行為のことだ。思いもかけぬ災厄の中から、それでも「いつの日にかはどこかの岸辺に――おそらくは心の岸辺に――流れ着く」ことを信じて。詩人、パウル・ツェランはそれを言葉、詩の本質と表現した。
ジャーナリストの伊藤詩織さんが壜を投じたのは2017年5月。元TBSワシントン支局長、山口敬之氏を相手取った準強姦罪での告訴が不起訴にされ、検察審査会への不服申し立て後に記者会見をしたのだ。だが相手は業界随一のアベ友、そもそも逮捕を潰したのは安倍政権の番犬、中村格である。各社は及び腰だった。ネット上では伊藤さんに対する罵詈雑言の嵐が吹き荒れた。
検審は不起訴を是とした。刑事司法が機能しない以上、民事訴訟しかなかった。弁護士からは「刑事が駄目だった案件で勝つのは難しい」と言われたが、「被害者が泣き寝入りする社会を変えたい」、「ここで『沈黙』すれば、『伝える仕事』はできない」と訴訟に踏み切った。
鬱やPTSDに苦しみながら戦い抜いた19年12月、東京地裁は山口氏に330万円の賠償を命じた。
だが、ここからだった。二審で相手は醜悪な印象付けに徹した…。(続きは月刊イオ2022年3 月号に掲載)