2年目の飛躍、次の舞台は世界―李承信選手、ラグビー日本代表に選出
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ジャパンラグビーリーグワン1部のコベルコ神戸スティーラーズに所属する李承信選手(21)が日本代表に選出された。5月31日、日本ラグビー協会が発表した。15人制ラグビーで朝鮮学校出身の在日朝鮮人選手が年齢制限のないトップチームの日本代表に選出されるのは初めて。
名門チームの主力に
今回、日本代表には34人が選出された。来年のラグビーワールドカップ・フランス大会を控え、日本代表は6月18、25日にウルグアイと、7月2、9日にはフランスと対戦する。
本誌は李選手が代表候補に選ばれた直後の5月19日、チームの練習場を訪ねて、李選手を取材した。李選手は、「自分の強みはボールを持って走るランの部分。それを合宿期間にどれだけアピールできるか。積極的にチャレンジして、代表選出、さらに初キャップを狙っていきたい」と意気込みを話していた(キャップとは、ラグビーで選手がナショナルチーム同士の対抗試合に出場した回数のこと)。
今年から新設されたリーグワンで、李選手が所属するコベルコ神戸スティーラーズは7勝9敗の7位に終わった。チームが苦戦する一方、加入2年目の李選手は大きく飛躍。ルーキーイヤーの21年シーズンは出場4試合(すべて途中出場)にとどまったが、今シーズンは全16試合中13試合に出場し、5トライ、27ゴール、6ペナルティゴールを挙げた。「出場時間も大幅に増えて、自分の強みを出せた。勝つ喜びを知る一方、勝つことの難しさも学んだ」とシーズンを振り返る。
身長176センチ、体重85キロ。登録ポジションであるスタンドオフ(SO)はバックス攻撃の起点となるチームの司令塔的なポジションだ。SO以外に高校、大学と慣れ親しんだセンターもこなす。パス、キック、ランいずれのスキルも高く、ゲームを組み立てる判断力にも秀でた万能型プレーヤー。今シーズンはチームの副主将も任されるなど、21歳にしてリーグ屈指の名門チームの主力に成長した。
初キャップ獲得を
神戸出身の李選手がラグビーを始めたのは4歳の時。兵庫県ラグビースクールに通った。神戸朝鮮初中級学校を経て大阪朝鮮高級学校(当時)に進むと、3年時には全国高校ラグビー選手権に出場。結果は2回戦敗退だったが、朝高時代からその力は高く評価され、高校日本代表でもキャプテンとしてプレーした。強豪・帝京大学でも1年時からチームの主力として活躍。ジュニア・ジャパン(20歳前後の日本代表)に選ばれ、主将も務めた。
しかし李選手のラグビー人生は決して順風満帆だったわけではない。国際舞台で世界との力の差を痛感したという李選手はニュージーランドへのラグビー留学を決意し、1年で大学を中退。退路を断っての海外行きだったが、その年の春から世界を席巻した新型コロナウイルス・パンデミックの影響で計画は頓挫した。大学は中退してしまったので戻れない。コロナ禍の中、地元の神戸で黙々とトレーニングに励むも、失意の日々が続いた。
そんな李選手に救いの手を差し伸べたのが現所属チームだった。兵庫県ラグビースクールのコーチだった福本正幸チームディレクターが教え子の現状を知り、練習後のグラウンドの使用を許可してくれた。その後、正式な獲得オファーを受け、21年シーズンよりチームへ加入した。
「自分が選んだ道を後悔しないように日々努力してきた。留学に送り出してくれた帝京大学、自分を拾ってくれた神戸には感謝している。家族にも少しは恩返しできたと思う」。副主将という重責にも、「これからの神戸を背負っていく気持ちでがんばりたい」とポジティブだ。海外のビッグネームや日本代表に名を連ねるチームメイトたちと切磋琢磨しながらさらなる高みを目指す。ラグビー界注目の逸材が目標とするのは、元ニュージーランド代表で、18年には神戸をリーグ制覇、日本一に導いたダン・カーター。代表112キャップを誇るスーパースターのプレーには「ラグビーの基礎がすべてつまっている」と語る。
来シーズンの目標は「チームのリーグ優勝」。その先に、9月のワールドカップを見据える。
国内最高峰の舞台でたたかう李選手のバックボーンにあるのは、朝鮮学校で育んだ在日朝鮮人としてのアイデンティティだ。「何のためにプレーして、誰のためにがんばるのか。その問いが今でも自分の原動力になっている」。
6月3日、宮崎での代表合宿へ合流した李選手は、所属チームを通じて次のようなコメントを寄せてくれた。「必ず初キャップを獲って、来年のW杯に少しでも近づけるようにがんばりたい」。
21歳の眼前には無限の可能性が広がっている。
6月25日 初キャップおめでとうございます!
難しいゴールキックを見事に決めて嬉しかったです!