【特集】魅力ふたたび 朝鮮半島の文化遺産
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2022年11月、朝鮮半島の伝統文化である平壌冷麺とタルチュムがユネスコ無形文化遺産に登録されました。このほかにも、朝鮮半島には世界に誇る数多くの有形、無形の文化遺産があります。本特集では、ユネスコ世界遺産、無形文化遺産に登録された朝鮮半島の代表的な文化遺産を紹介します。
知っていますか、朝鮮半島の無形文化遺産
朝鮮民族固有の文化は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産としても数多く登録されている。北南が共同登録した「シルム」(2018)をはじめ、「アリラン」(2014)や「キムジャン」(2015、以上朝鮮申請)、「宗廟祭礼楽」(2001)、「パンソリ」(2003、以上韓国申請)など、計26種(朝鮮4、韓国22)が無形文化遺産として認められている。その中から、2022年11月に新たに登録された「平壌冷麺の風習」(朝鮮)と「韓国のタルチュム」(韓国)を紹介する。
平壌が誇るソウルフード
平壌冷麺の風習
朝鮮が誇るソウルフードである平壌冷麺。朝鮮王朝時代の祭事を記した『東国歳時記』(1849)には「そば粉の麺にダイコンとハクサイのキムチ、豚肉を入れたものが一番だというが(中略)…関西地方(平壌を含む平安道地方)のものが最も良い」と記されていることから、歴史的に冷麺のメッカが平壌であることがわかる。『海東竹枝』(1925)にも「平壌冷麺が最も良い」との記述がある。日本で広く普及されている小麦粉ベースの盛岡冷麺も、平壌冷麺をルーツとして在日同胞たちが独自に発展させてきたものだ。直近では2018年の北南首脳会談の晩餐会で振る舞われたことで、平壌冷麺は北南融和の象徴としても一躍脚光を浴びた。…
タルチュム
社会矛盾をユーモアと風刺で表現
タルチュム(탈춤、仮面舞)は朝鮮半島の民俗芸能の一つで、紙やヒョウタンなどでつくった仮面をかぶって行う踊り、音楽、演劇が含まれた総合芸術だ。不条理な社会問題や道徳的矛盾などのテーマをユーモアと風刺で表現した。空き地があればどこでも公演できるため、演者と観客が一つの空間で交感し合える点も特徴だ。朝鮮王朝時代に流行し、朝鮮半島各地にさまざまな内容や形式のものが伝わる。
朝鮮半島全体にまつわる伝統芸能だが、韓国政府は今回、「韓国のタルチュム」としてユネスコ無形文化遺産に登録申請した。ユネスコ無形文化遺産委員会は「韓国のタルチュム」の登録と関連し、タルチュムが有する平等の価値や社会的な身分制度への批判などが普遍的であることなどを評価した。
世界遺産を旅する
文化や歴史を残す景観や自然環境を、普遍的な価値を持つ物件として保護を指定したユネスコ世界遺産。現在、朝鮮半島には17の対象が登録されている(文化遺産15件、自然遺産2件。朝鮮2件、韓国15件)。このうち文化遺産を北南ごとに写真と文章で紹介する。
開 城
高麗の首都、千年の都
文●洪南基(朝鮮大学校理事長)
高句麗の栄光と新羅千年の歴史を包み込む高麗(918―1392年)の首都―開城。目をつぶると高麗の王宮・満月台会慶殿の前にそびえる母なる山・松嶽山や朝鮮天台仏教の総本山霊通寺を囲む五冠山の姿が目に浮かぶ。
開城は朝鮮半島で初の統一王朝を打ち立てた太祖・王建の故郷であり、475年に及ぶ高麗王朝の首都であった。高麗はその名の通り高句麗の後継国であり、開城は千年の都でもある。金日成主席の銅像がある開城市内の子男山から街を見下ろすと高麗の甍が今も広がっている。決して大きな街ではないが、重厚な歴史的背景を持つ風格ある都市として2013年に世界遺産に登録された。開城の北を流れる礼成江、松都三絶のひとつに数えられる朴淵瀑布など自然美に恵まれている。大興山城北門に登ると、契丹の80万大軍を戦うことなく交渉で撤退させた徐熙、契丹の40万大軍をせん滅させた姜邯賛、モンゴルの侵略に対して断固戦った三別抄の裵仲孫など高麗の武人たちの息使いが聞こえてきそうである。…
大空をかける白虎、進む玄武
高句麗壁画古墳群
文●河創国(朝鮮大学校文学歴史学部教授)
高句麗壁画古墳と初めて出会ったのは、30年前の朝鮮大学校生時代だ。初めて訪れた安岳第3号墳の壁画に圧倒されたことを記憶している。今でも学生たちと祖国を訪問する度に壁画古墳を見ることにしているが、学生たちも興奮を隠せないようだ。前置きが長くなったが、朝鮮民主主義人民共和国の有名な高句麗壁画古墳を訪ねてみよう。
平壌市内から高速道路で元山へ向かうと、やがて左手遠方に大きな古墳が見えてくる。東明王陵だ。1993年に改築された墳墓の壁面には百余りの蓮華文が残る。東明王陵右側の林道を進むと、松林の中に古墳が点在している。その風景は『魏志』高句麗伝が「厚葬を好み墓の周囲に松栢を植えた」と伝える高句麗人の葬送風習を連想させてくれる。10基からなる真坡里古墳群で、壁画が描かれるのは東明王陵と真坡里第1・第4号墳の3基だ。4号墳の風になびく松は、線と色彩で幹の曲線と小枝を見事に表現しており、梢を吹き抜ける風の音が聞こえてくるようだ。…
百済、新羅、朝鮮王朝―いにしえの文化に触れる
韓国内にあるユネスコ世界文化遺産は全13件。百済(紀元前1世紀末~660年)や新羅(1世紀初中葉~935年)、朝鮮王朝時代(1392~1897)のものが多く、朝鮮王朝の都だったソウルや地方都市まで全土に点在している。中でも、新羅の都だった慶州は韓国内でもっとも多くの世界文化遺産を保有している都市だ。歴史の教科書にも出てくる仏国寺や石窟庵、高麗八万大蔵経が所蔵されていることで有名な海印寺、朝鮮王朝時代のようすを今に伝える宗廟や昌徳宮、数百年前の人びとの暮らしが保存されている河回と良洞の民俗村、先史時代の支石墓(고인돌)遺跡などなど―。いにしえの文化に触れる遺産の数々を誌上でめぐる。
朝鮮半島の世界遺産一覧
これまでユネスコ世界遺産に登録された朝鮮半島の文化遺産を一覧で紹介する。
※2022年末現在、朝鮮半島にある世界遺産は全17件(北:2、南:15)。そのうち2件は自然遺産であるため、今回の特集からは除外した。