【イオニュースPICK UP】「『祖国へ帰れ』は差別」ーヘイトブログ訴訟、崔江以子さん本人尋問で訴え
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多文化交流施設「川崎市ふれあい館」の館長を務める在日朝鮮人女性・崔江以子さん(49)がインターネット上で4年以上にわたって、「さっさと祖国へ帰れ」などと匿名の差別投稿を繰り返され、精神的苦痛を受けたとして2021年11月18日、305万円の損害賠償を求めて茨城県在住の40代男性を訴えた訴訟の第6回口頭弁論が5月18日、横浜地裁川崎支部で開かれた。
この日、原告の崔さんに対する本人尋問が行われた。
崔さんは、「幼いころは差別から逃げたくて自分が在日朝鮮人であることを隠していたが、高校時代にふれあい館を訪ねたことがきっかけとなり、自分の出自を隠すのではなく民族名を公表してで生きていくことを決心した」などと自身の生い立ちについて語った。
さらには、2013年、川崎でヘイトスピーチをともなうデモに遭遇し、怖い思いをしたこと、15年11月に在日朝鮮人集住地区の桜本を標的にヘイトデモが行われた際は、ふれあい館職員としてハルモニや子どもたちを守るため現場で抗議したこと、16年3月には国会で参考人陳述を行ったことなど、ヘイトスピーチ根絶のための活動に取り組むようになった経緯についても話した。
しかしそれらの活動を機に大量の匿名の誹謗中傷や嫌がらせ、脅迫にさらされ、健康を害し、被害は家族にもおよんだ。崔さんは「不安、不眠、目まい、恐怖とストレスで耳が聞こえなくなり、味覚も分からなくなった」と被害を吐露。外出時に防刃ベストを着用するようになったことも明かした。
崔さんは、「祖国へ帰れ」という言葉は「この社会で生きてきた時間、記憶、思いすべてをないことにするもの」で、「この社会にとっていらない人間だと言われたようなもの」だとその差別性、暴力性を指摘。米国における公民権法の成立に多大な貢献をしたローザ・パークスさんやキング牧師の行動を例に挙げ、「私にはそのような力はないが、裁判所にはある。投稿が差別であると示して、被害を止め、私たちを守ってほしい」と裁判官に向けて訴えた。
一方、被告側弁護士による反対尋問では、被告側弁護士が崔さんに向かって「被害者ビジネスではないか」などと発言し、傍聴席から怒りの声が上がる場面もあった。
訴状によると、被告は2016年6月、自身が運営するブログで崔さんに対して、「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」などと書き込んだ。崔さんの請求によってブログ管理会社が投稿を削除した後も同年10月から約4年にわたり、「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などの投稿を繰り返した。崔さん側は「祖国へ帰れ」などの発言がヘイトスピーチ解消法が定める「不当な差別的言動」にあたり、ブログ投稿削除後の書き込みは名誉毀損にあたるとして、男性を訴えた。
口頭弁論終了後、記者会見と報告集会が行われた。
次回期日は7月6日。
裁判所は違法性認定を
今回の訴訟の重要な目標は、崔さんに向けられた「祖国へ帰れ」という言動が、外国にルーツを持つ人びとの人間としての存在を否定し、その人格権を侵害する差別行為にほかならず、それゆえに違法であることを司法に認めさせることにある。原告側は「帰れ」発言が歴史的、社会的、文化的にいかに問題なのかを論証した板垣竜太・同志社大学教授の意見書も提出した。
尋問を終えた崔さんは報告集会で、「ハルモニたちや子どもたちとの約束を守りたい、その思いが力になった。包括的な差別禁止法やそれに基づく国内人権機関を設立し、裁判によらずとも被害者が救済される仕組みが必要だと実感した」と思いを吐露した。
原告側弁護団の神原元弁護士は、日本の裁判所は差別について無関心、無理解であると指摘、「差別を受けた人がどういう思いをするのか、『祖国へ帰れ』という言葉にどれだけの痛みを感じるのか、被害者に直接語ってもらうのが今回の尋問の目的だった」とのべた。
師岡康子弁護士も、「在日コリアンは植民地支配の結果として日本に住んでいる。祖国に帰れという言葉には歴史的な差別性がある」と指摘した。(文、写真:李相英)