【イオニュースPICK UP】関東大震災朝鮮人虐殺を絵から読み解く/高麗博物館で企画展
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高麗博物館(東京都新宿区)で7月5日から関東大震災朝鮮人虐殺企画展が開催されている。今回の展示では、新井勝紘さん(高麗博物館前館長)が発見した「関東大震災絵巻」が公開され、話題を集めている。作者は淇谷という雅号を持つ画家。5日に開かれた記者会見では新井さんがこの絵巻について説明した。
考えるきっかけに
記者会見ではまず高麗博物館理事長の村上啓子さんがあいさつを行った。2001年に開館した「市民がつくる日本・コリア交流の博物館」である認定NPO法人高麗博物館は、これまで2003年、14年、18年に関東大震災の展示を実施してきた。
今回の展示は「関東大震災100年 隠蔽された朝鮮人虐殺」と題し、「1人ひとりが歴史に向き合い、いわれなく殺された人びととその遺族の方たちの無念の思いを想起するきっかけとなり、今の社会に住むすべての民族の人たちが、未来に希望を持てる共生社会をつくっていくために何が必要かを改めて考える一助にしたい」という趣旨で行われる。
展示を担当した理事の小川哲生さんは企画展示の特徴について、▼リアルな虐殺現場が描かれた絵巻物を一般公開、▼歴史否定の動きに抵抗する試み、▼謝罪や賠償を求める市民の動きを展示するという3点を挙げた。展示は7月5日から12月24日まで行い、ギャラリートークなども予定している。
自分自身の問題として
今回の展示はソウルの植民地歴史博物館との連携企画として行われる。同博物館は韓国民族問題研究所が中心となり、「植民地主義の清算と東アジアの平和をめざす」ことを目的に2018年に開館した。同博物館はこれまでも高麗博物館と関わりを持ってきており、そのつながりで今回、連携企画展が実現することとなった。
韓国では関東大震災朝鮮人虐殺に関する展示はこれまで本格的に行われたことがない。8月から10月まで行われる展示では、なぜ朝鮮人が日本で暮らしているのかといった虐殺についての基本的な背景から始まり、真相究明にあたる市民の動き、そして新井さんが解説する絵巻物の映像も展示される予定だ。この日、ソウルから駆け付けた植民地歴史博物館の野木香里さん(専任研究員)は「今回の展示を機に韓国でも人びとが関東大震災時の朝鮮人虐殺を自分自身の問題として捉えていただけるよう工夫をしていきたい」と語った。
絵から読み解く
会見では、関東大震災時の朝鮮人虐殺を描いた絵巻物について新井勝紘さんが発言し、報道陣の質問に答えた。
新井さんは、大学教員として10数年務める前には千葉県にある国立歴史民俗博物館(以下、歴博)で近現代の展示の担当をしていた。関東大震災の朝鮮人虐殺を同博物館で扱ったこともある。新井さんは、子どもたちもわかりやすく理解できるようにと展示物の内容について模索する過程で、「虐殺を描いた絵はないだろうか」という考えを抱くようになった。
その後見つけた都内の小学校のアルバムの中に関東大震災時に描かれた絵で虐殺につながるものがあり、衝撃を受けた。それから、大人、とりわけ画家が描いた虐殺に関する絵を探してきた。
今回の企画展で展示されている河目悌二の関東大震災朝鮮人虐殺を描いたスケッチ、前回展示した萱原白洞による絵巻物などが見つかり、虐殺を記録として絵に描き残していた人がいるという確信を得たという。
今回公開された淇谷作の絵巻は新井さんがヤフーオークションで見つけ落札した。作品を開いてみたところ、朝鮮人虐殺虐殺の場面が描かれていた。
淇谷の「関東大震災絵巻」(2本)は、2巻合わせて30mを超える長い巻物で、虐殺の場面は1巻の終わりあたりにある。絵巻物には「大正十五年 早春」とあり、震災から2年半後に完成したものとみられる。朝鮮人虐殺のようすが鮮明に描かれている絵を見ながら新井さんは「これを虐殺と言わないでなんと言うのか」と語る。
「朝鮮人虐殺は自警団が中心となって行われたと言われることが多いが、実際は警察や軍隊もいて、官民が一体となって、虐殺が行われた。見ている人も含めて虐殺行為に加担しているのに、誰もその責任を取っていない」(新井さん)
絵巻物の中には他にも、虐殺された人たちをモノでも扱うかのように山積みにしていたり、虐殺を周りから民衆がのぞき込んでいる場面などもある。
新井さんは、「この場全体が醸し出しているある種の異様な雰囲気があり、そこをわたしたちは読み解き、語り継いでいくことを淇谷さんは考えていたのではないか」としながら、「たった一枚の水彩画だが、それをどのように読み解いていくのか、見る側が試されている」と語った。
企画展には絵巻物やパネルのほかに関連書籍なども多数並べられており、100年前の虐殺について来場者に考えるきっかけを与えてくれる。
また、高麗博物館は7月31日に新宿区立四谷区民ホールで関連イベントを予定している。詳細は以下から。
(文・写真:康哲誠)
▽関連イベント
『関東大震災から100年の今を問う~過去に学び、未来の共生社会を作るレッスン~』
内容:
第1部 新井勝紘(高麗博物館前館長)「関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く」
第2部 徐京植(高麗博物館理事)「韓国現代アーティストの映像作品に見る『ルワンダ虐殺の記憶』」
日時:7月31日(月) 開場 18時/開演 18時30分(終演は21時)
場所:新宿区立四谷区民ホール
料金:チケット 前売り:2000円/当日:2500円/学生:1000円(全席自由)
問合せ:認定NPO法人高麗博物館
Tel:03-5272-3510
HP:https://kouraihakubutsukan.org/