【イオニュースPICK UP】言論の自由、守るため/ 石橋記者へのスラップ訴訟、控訴審はじまる
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判決は10月4日
川崎市のコリアンをめぐって差別発言を行った川崎市議会議員選挙の元候補者・佐久間吾一氏が、神奈川新聞の石橋学記者に損害賠償を求めた訴訟(2019年2月、横浜地裁川崎支部に提訴)の控訴審(中村也寸志裁判長)が7月31日、東京・霞が関の東京高裁で行われた。
控訴した石橋記者は、準備書面を提出し、23年1月31日、同記者に15万円の慰謝料を求めた原判決は、「市民の言論の自由を侵害するとともに、報道の自由を著しく侵害するものであって、言論の自由を保障した憲法21条1項に違反している」と主張した。裁判は即日結審された。判決は10月4日。
佐久間氏は、2019年2月、自身が代表を務める団体が川崎市内で主催した講演会で、「旧日本鋼管の土地をコリア系が占領している」「共産革命の橋頭堡が築かれ今も闘いが続いている」などと発言。この発言に対して、石橋記者は「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗中傷」と神奈川新聞の記事で報じた。
また、川崎市議会議員に立候補した佐久間氏が2019年5月18日の街頭発言で、川崎市による公園使用不許可(16年5月30日)の決定の根拠を、ヘイトスピーチ解消法であるとのべたことに対し、石橋記者は「デタラメを言っている」と発言した(実際は、川崎市都市公園条例が根拠となる)。佐久間氏は石橋記者の記事と発言が、自身の名誉を低下させた、などとしている。
今年1月の原判決は、石橋記者の記事の正当性は認めたものの、街頭での発言については、「原告の名誉を棄損した。不法行為が成立する」として石橋記者に15万円の慰謝料の支給を求めた。控訴審では、街頭演説での石橋記者の発言が違法にあたるのかが争点になる。
原判決について弁護団は、「石橋記者の発言は、新聞記者として、市議会議員選挙に出馬しようとしている佐久間氏が勉強不足のまま公衆に意見をのべるのは不誠実である旨、指摘したものにすぎず、本判決が確定すれば、報道機関による政治家への取材・批判の自由が著しく萎縮するものであって、民主主義社会の根幹をなす表現の自由を揺るがす。意見ないし論評の自由を認めた最高裁判例〔2004年7月15日〕に反するものだ」とした。
川崎市をめぐっては、2016年から差別主義者たちによるデモが続いてきたが、市民たちが声を上げつづけ、国会をも動かし、同年6月のヘイトスピーチ解消法の成立を促した経緯がある。
しかし、その間も選挙活動に名を借りた差別主義者たちの集会や街頭宣伝が続き、苦しい闘いが続いてきた。佐久間氏が起こしたスラップ訴訟(恫喝訴訟)は、裁判の名を借りた記者への個人攻撃だと言える。
閉廷後、弁護士会館で記者会見と報告集会が行われた。
石橋記者は、「私は、差別を扇動しマイノリティを攻撃するデマだから、(佐久間氏に)打ち消してほしいと発言した。(佐久間氏らは)自分が行っている差別を、まともな言説のように装い、差別をし続けている。これは裏返せば、街宣や集会でヘイト発言ができなくなっていることの裏返しだと言える。マイノリティ当事者が身を削りながら法廷で努力を積み重ねた結果、司法も変わってきている。今回の判決はその流れの中にある。(差別主義者たちに)鉄槌を下したい」と発言した。
この日の控訴審を傍聴しようと、75人の市民たちが傍聴券を求めて並んだ。報告集会には、川崎市の日本市民たちやコリアン、新聞労連が応援に駆け付け、「逆転勝訴」を誓った。(文・写真:張慧純)