【イオニュースPICK UP】「運動の高まりを」― 群馬の森朝鮮人強制連行犠牲者追悼碑 存続かけて新たな闘いへ
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歴史否定の潮流の中で
守る会の前身である追悼碑を建てる会は、県下において戦時中に飛行場工事や軍の地下工場で強制労働された朝鮮人犠牲者を追悼し、県議会での全会一致の採択を経て、「記憶 反省 そして友好」の追悼碑を2004年に建立した。12年、碑の前で追悼式が行われた後、歴史修正主義の高まりとともに、「碑文が反日的」などの声が県に寄せられ、「そよ風」などの排外主義団体によって碑の撤去を求める声が上がった。13年、守る会は碑の設置期間更新許可を申請したが、県は翌14年にそれを不許可に。同年、守る会は県の対応が不当だとし前橋地裁に提訴。18年、県の対応が「裁量権の逸脱」だとする判決が下され、守る会が勝訴したが、東京高裁では一転、守る会が敗訴。守る会は最高裁に上告したが、昨年6月、上告が棄却され、高裁判決が確定した。
その後、守る会は県側と5回ほど話し合いを行ったが、議論は平行線をたどった。県は今年4月27日付で追悼碑の撤去および原状回復命令を守る会に送った。守る会は碑の設置管理許可申請書を5月12日付で山本一太県知事宛に提出したが、6月13日付で不許可となった。
3つの布石
今回、守る会は①今年4月27日付で県知事が行った碑の撤去及び現状回復命令に対する取消訴訟、②5月12日に守る会が行った碑の設置管理許可申請を受けて、県が6月13日付で送った不許可処分に対する取消訴訟を地裁に提起するとともに、③取消訴訟を起こしたとしても、碑の撤去および現状回復命令の効力は維持されたままになるので、それを防ぐための執行停止を求める申し立ても行った。
今後、県から行政代執行の通知が来た場合には、代執行の通知に対する取り消し訴訟と執行停止の申し立てをするという。行政代執行とは、法律上公益を著しく侵害している建造物に対して行政が撤去に着手することをいう。角田義一弁護団長は「何の公益を害するのか。代執行を行おうとする県知事への抗議の意味を含めて、裁判をする」と話し、「我々は勝つという信念に基づいて、徹底的に闘う」と決意を表明した。
訴状を提出した下山順弁護士は、法的に提訴が可能な根拠として、1審判決で「追悼碑の意義が仮に強制連行という言葉で失われたとしても、追悼碑の効力は回復する」とあること、また、そもそも「『強制連行』という発言があったとしても碑の性質が変わるわけでもない」としつつ、「追悼式を(碑の前で)執り行わなくなってから11年が経過している。1審判決の言う『時の経過』を満たしているのではないか」と説明した。
会見を終え、守る会の藤井保仁事務局長は今後、裁判に突入すれば決起集会、スタンディングデモ、公正な裁判を求める署名集めなどを行っていく予定だという。「これは、一時期の歴史修正主義の激化の中で起こった出来事に対する県行政の判断を促すための裁判闘争だ。歴史認識の問題に県行政としてきちんと向き合ってほしい」(藤井さん)。
運動の高まりを
「裁判を通して、追悼碑を守る運動の高まりをもたらしていきたい」。前橋地裁で訴状と申立書の提出を終えた下山順弁護士は緊張した面持ちで、静かに意気込んだ。
群馬の森追悼碑問題の行方は各地の運動にも大きな影響を及ぼす。この問題の根本には、「強制連行」という言葉が「一方の政治的な主義主張」と捉えられる社会的な状況がある。碑はいわば、歴史否定の濁流における「防波堤」となっている。守る会は碑を断じて守り抜こうという新たな運動へと、その一歩を踏みだした。(文・写真:康哲誠)
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