【イオニュース PICK UP】「祖国へ帰れ」は差別、被告に194万円の賠償命令
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川崎ネットヘイト裁判、原告の人格権侵害認定
多文化交流施設「川崎市ふれあい館」(神奈川県川崎市)の館長を務める在日朝鮮人女性・崔江以子さん(50)が2016年からインターネット上で4年以上にわたって、「さっさと祖国へ帰れ」などと匿名の差別投稿を繰り返され、精神的苦痛を受けたとして2021年11月18日、305万円の損害賠償を求めて茨城県在住の40代男性を訴えた訴訟の判決言い渡しが10月12日、横浜地裁川崎支部であった。
判決は、「日本に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」という投稿について、ヘイトスピーチ解消法2条にある「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当するとし、慰謝料100万円、「差別の当たり屋」や「被害者ビジネス」との表現は原告の名誉感情を大きく侵害したとして慰謝料70万円、その他弁護士費用含め合計194万円の支払いを被告に命じた。
判決は、被告の「祖国へ帰れ」発言がヘイトスピーチ解消法2条にある「本邦外出身者に対する不当な差別的言動」に該当すると認めたうえで、「憲法13条に由来する人格権、すなわち、本邦外出身者であることを理由として地域社会から排除され、また出身国等の属性に関する名誉感情等個人の尊厳を害されることなく、住居において平穏に生活する権利は、本邦外出身者について、日本国民と同様に享受されるべきものである」と指摘。そうすると「祖国へ帰れ」という投稿は、「本邦外出身者である原告について、地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動であるから、住居において平穏に生活する権利等の人格権に対する違法な権利侵害にあたり、不法行為を構成する」とのべた。そして判決は、被告の「祖国へ帰れ」との表現は、原告が日本の地域社会の一員として過ごしてきたこれまでの人生や、原告の存在意義をも否定するものであり、当該表現が原告の名誉感情、生活の平穏、個人の尊厳を害した程度は著しく、これらの人格権侵害による原告の精神的苦痛は非常に大きいとして、100万円の慰謝料を認めた。
原告側弁護団は声明を通じて、本判決を「ヘイトスピーチを断罪する画期的な判決」と評価した。とくに、「『祖国へ帰れ』との言動は、ながく在日コリアンを苦しめてきた、かつ、現在も苦しめているヘイトスピーチの典型であり、これが違法な差別的言動に該当すると認められ、高額な慰謝料が認められたことは極めて意義のあること」だとのべた。また今回の判決は、これまで理念法にとどまるとされてきたヘイトスピーチ解消法の第2条にある「不当な差別的言動」に該当すれば人格権侵害として違法であると示したことで、「同法を補充し、実効あらしめるものである」と評価した。そのうえで、弁護団として、本判決の意義と本裁判の成果を全国に広げ、ヘイトスピーチ断絶のために今後もたたかっていくと表明した。
判決言い渡し後、原告および弁護団の記者会見と市民団体「ヘイトスピーチを許さないかわさき市民ネットワーク」主催の報告集会が行われた。会見および集会では、弁護団から今回の訴訟の経緯と判決内容についての解説があった。また、原告の崔さんが勝訴に際しての思いをのべ、支援者、関係者からも労いと祝福の発言が相次いだ。
崔さんの発言要旨は次のとおり。
「司法を信じて、司法の場に希望を求めて裁判を起こした。今日の判決に向けて応援のメッセージをつづってくれた『ふれあい館』のハルモニたちがこれまでの人生でどれほど『日本から出ていけ』『国へ帰れ』という言葉に痛めつけられてきたか。帰れとか日本から出て行けとか言われるのが怖いから、自分の名前すら名乗れず生きてきた子どもたちがいる。そんな人たちのことを思いながら判決を聞いた。
今日は想像以上の大きな希望を裁判所が示してくれた。私たちはともに生きる仲間なんだということを判決で示してもらった。2016年から4年以上にわたって被害を受け続け、そこから7年という時間を経て判決が出た。長い時間がかかったが、ヘイトスピーチ解消法が支えになっていい判決が出たことを喜んでいる。
一方で、裁判を起こしたことでこの間、これまで以上のネットリンチに遭った。今回の判決が、これ以上の被害を生まないようなネット上の差別禁止の法規範につながってほしい。今日の判決を通じて、被害を受けた私の救済だけでなく、さまざまな人びとに希望を届けることができたと思う」
(文・写真:李相英)