【イオニュースPICK UP】1世が生きた証を 菊池和子写真展、29日まで開催中/川崎のハルモニたち題材に
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菊池和子さん(77)の写真展「チマ・チョゴリの詩がきこえる―川崎・桜本に集った在日一世たち」がギャラリー結(東京都大田区)にて10月20日から開催されている。22日には菊池さんと多文化交流施設・川崎市ふれあい館職員の遠原輝さん(34)によるトークイベントが行われた。
主催した石井恵美子さん(83)は、これまでも菊池さんの福島原発事故後の福島の写真などをギャラリー結にて展示してきた。今回の展示は、菊池さんが撮影した川崎の在日朝鮮人1世たちのポートレートを見て「衝撃と感動を覚えた」という石井さんの「ぜひうちで展示して、伝えていきたい」という思いから実現したという。
菊池さんは小学校の教員を早期退職した後に2000年から川崎市ふれあい館の「トラヂの会」にて在日朝鮮人1世との交流を始め、2年5ヵ月通い続けて撮影をし、写真集『チマ・チョゴリの詩がきこえる―在日60余年、いま、川崎で老いて―』(2005年、小学館)を発刊した。写真とエッセイで紡がれた写真集をもとに、今回の展示写真が立ち並んでいる。ポートレートの下にはその人の生まれや故郷が書いており、見る人にハルモニたちの生きてきた歴史を想起させる。
中国の北京より南、石家荘市に生まれた菊池さんは、貧困と重労働といった困難のなかで生きてきた1世のハルモニ・ハラボジたちが同じ時代に苦労をした両親と重なるものを感じて撮影するようになったという。
チャンゴの音が鳴り出すと、杖をついていたハルモニがすくっと立ち、音に合わせてオッケチュムをする。「それだけかのじょたちの心を開放する何かがその音色にあったのではないか」と菊池さんはトークイベントで当時のようすを振り返った。
またある時、菊池さんが一人のハルモニにカメラを向けるとものすごい声で怒鳴られたという。「息子におこられるよ」と話すそのハルモニには日本名で会社に勤める息子がいた。「出自が明らかになると息子が窮地に立たされるのではないかと思ったのではないか」。菊池さんは自分の興味関心で1世たちの写真を撮っていたが、撮られる側である在日朝鮮人にとっては人生に関わることなんだということをその時に考えさせられたという。
続いて発言したふれあい館職員の遠原輝さんは、ふれあい館が「差別をなくす」という目的を持ったふれあい館条例をもとに設置運営されていると話す。そのうえで、これまで川崎地域の小中学校における「多文化共生社会」推進事業、在日同胞高齢者の交流の場である「トラヂの会」や在日同胞高齢者の識字活動「ウリマダン」などの活動について説明した。
また、1910年の「日韓併合」から始まり、戦後の在日朝鮮人たちの生活苦、1980年代の指紋押捺拒否運動などの差別と偏見との闘いについて、川崎市桜本地区でのヘイトデモが立法事実の一つとなって2016年に施行されたヘイトスピーチ解消法や2020年の「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例などについて伝えた。
遠原さんは「(ふれあい館の職員を)始めた当初は業務として担当していたが、今ではライフワークとなっており、ハルモニたちから常にパワーをもらっている」と話した。
トークイベントにて「在日コリアンの未来」について話が及んだ際に、オーナーである石井恵美子さんの夫で日朝協会東京都連理事長の石井賢二さん(83)は参加者たちに「朝鮮の歴史は日本の歴史でもある。そういう歴史認識をきちんと持つことが大事なことで、差別をなくす戦いと運動を私たち日本人自身が在日コリアンと力を合わせて一緒に進めていくところに未来があるのではないかと思う」と呼びかけた。
2005年に発行された『チマ・チョゴリの詩がきこえる』の「はじめに」で菊池さんはこう綴った。「歴史の生き証人としての過去、『今が青春』の現在、そして未来を生きるハルモニ・ハラボヂに共感しながら撮影できた、この2年5か月に深い喜びを感じます」。
ギャラリー結での菊池さんによる写真展は10月27日(金)から29日(日)までの開催を残すのみ(12時~17時、入場無料)。また、菊池さんは2月から一般上映が始まる金聖雄監督の『アリランラプソディ~海を越えたハルモニたち~』の上映館にて「会場の都合さえ許されるのなら、写真を展示したい」と希望を語った。(文・写真:康哲誠)
◇イベント詳細は以下の通り
菊池和子写真展「チマ・チョゴリの詩がきこえる 川崎・桜本に集った在日一世たち」
日時:10月20日(金)~10月29日(日)/期間内の金・土・日曜日12時~17時のみ
場所:ギャラリー結(大田区萩中1-10-27、京浜急行糀谷駅から徒歩10分)
料金:無料
主催・問合せ:ギャラリー結 【Tel】090-3682-6362(石井)
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