続くレイシズムをどう克服するか~ 東京弁護士会が関東大震災100年でシンポ
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記憶の虐殺に抗して
東京弁護士会が主催する関東大震災100年に関するシンポジウム「~記憶の虐殺に抗して~」が9月11日、東京都の弁護士会館で行われ、135人が参加した。
日本弁護士連合会(日弁連)は9月1日、会長談話を発表し、日弁連が2003年8月25日付で小泉首相に出した勧告書(※)を想起させながら、人種的差別撤廃についての基本法の制定を求めた。また、東京弁護士会も8月31日に松田純一会長名で声明を発表。「節目の今年こそ、根本的な差別意識を解消すべく、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを含む人種差別を撤廃する法整備を行う」ことを求めている。
※朝鮮人虐殺に関し、日本政府に対して、軍隊及び自警団による虐殺の被害者・遺族に対し、その責任を認めて謝罪すべきであり、虐殺の全貌と真相を調査し、その原因を明らかにすべきであるという内容
シンポジウムでは、2003年8月の日弁連勧告の元になった調査報告書を作成した経験を梓澤和幸弁護士(元日弁連人権擁護委員会関東大震災朝鮮人・中国人虐殺問題調査部会責任者)が発言した。
梓澤和幸弁護士は、流言飛語に突き動かされた普通の人々が朝鮮人虐殺を行ったとの「流言飛語説」がメディアやリベラルを含めた「通説」になっていることに警鐘を鳴らしながら、「朝鮮人が東京市内で爆弾を所持して石油を注いで放火」していることを前提に、内務省警保局長が「鮮人の行動」に対する厳密なる取締を各地方長官宛に指示した1923年9月3日付けの公電を紹介した。
「噂ではなく、(虐殺に関する)国家の指示があった。1960年の警視庁と自衛隊の共同研究により当時、1587の自警団が組織されたことがわかっている。関東大震災朝鮮人虐殺は、19世紀末から続く義兵運動、3・1独立運動への弾圧に連なる出来事だ。国は記録がないといっているが、記録があることは警視庁などで確認できた。国の責任を明らかにしていくことが重要だ。亡くなった人たちが言わせていると思ってください」と熱を込めた。
続いて、「現代レイシズムと歴史の反復」と題して板垣竜太・同志社大学社会学部教授が基調講演を行った。
朝鮮近現代社会史、レイシズム研究が専攻の板垣教授は、「現代日本は虐殺が二度と起こりえない社会を作っているのか」と問題提起しながら、「現代レイシズムが関東大震災の虐殺時の特徴をいかに継承してしまっているか」をテーマに話を進めた。
板垣教授は、2011年の東日本大震災に起きた人種差別発言、ウトロ放火事件(2021年)を手がかりに、継続する朝鮮人差別を考察した。ある研究者が2016年に仙台市でアンケート調査をしたところ、東日本大震災時に外国人犯罪のうわさを聞いた人が51・6%におよび、聞いた人のうち信じた人が86.2%に達したうえ、流言による自警団まで組織されたことに言及。中国人が窃盗を働いたことを事実のように伝える動画を紹介した。
そして、流言飛語を「事実」とみなして行動するする情報のバックボーンには、関東大震災時には、軍・警の情報網、新聞があり、東日本大震災ではマスコミ、インターネットという「共通性」があったとのべながら、ウトロ放火事件の犯行に至っては、「韓国(人)に関わるという以上の共通性はなく、それさえ満たしているとみなされれば、なんであっても攻撃対象になりうる」という加害者側の「置換可能性」について指摘した。
「関東大震災では、福田村事件に代表されるように朝鮮人とみなされた者が皆殺しに遭った。ウトロ放火事件では、ウトロ住民からも在日コリアンからも直接被害を受けた経験がゼロなのに、平和祈念館が…日本に害悪を及ぼしているとみなし、加害に及ぶという、被害の反復が起きている」(板垣さん)
また「現代レイシズムにおける政府の主導性」についても時間を割いて説明した。
板垣教授は、「北朝鮮フォビア」「韓国バッシング」における政府の役割として、京都朝鮮第1初級学校襲撃事件に先行する滋賀朝鮮学園への強制捜査(2007年1月)を例示。関東大震災時には、政府の朝鮮人「保護」が強調され、国家責任が隠ぺいされ、それが今も続いているとして、当時朝鮮では朝鮮人虐殺を語ることも治安維持上「流言」扱いにされ、現在は歴史修正主義に「配慮」して公的機関が関与する表現の場においては検閲が行われていると現状を伝えた。
板垣教授は、「過去の問題は過ぎ去っておらず、現代レイシズムの起源として植民地主義が続いている。加害側が過去のレイシズムの構造を継承しており、その構造の中でマイノリティが安心できていない」と俯瞰したうえで、2001年のダーバン会議を手掛かりに、レイシズムの克服について考察。「犠牲者の記憶に敬意をささげ、過去の残虐行為や悲劇をしっかり学ぶことが現在と未来の社会のために大事だ」と言及した。
パネルディスカッションでは、師岡康子弁護士の司会のもと、一般社団法人「ほうせんか」の慎民子さん、東京弁護士会「外国人の権利に関する委員会」委員の金哲敏弁護士が発言した。
「ほうせんか」の慎民子さんは、「100年前と今の状況が確実に違うことは、(朝鮮人虐殺を)繰り返してはいけないという日本人がたくさんいることで、力強い希望だ。日本政府は虐殺を認めていないが、関東大震災の問題は関東だけではなく、全国に広がっている」と語った。
とくに墨田区にある追悼碑を訪れる若い青年たちによって、「ペンニョン(百年)」というグループが生まれたことを喜びながら、「どうすれば語りつぐことができるのかを悩んできたが、今30人ほどの若者とつながり、動きが拡散している。国をちゃんと動かしていくことが大きな問題だ」と伝えた。(文:張慧純、康哲誠、写真:康哲誠)