【ニュースPICK UP】専業画家として「新たな出発」 第1回張留美展開催
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愛に満ちた作品
京橋には骨董の専門店や現代アートを扱う画廊が多く立ち並んでいる。東京メトロ銀座線・京橋駅から少し歩くと、建物の1階がひときわ明るく輝くところがあった。ギャラリーくぼた本館だ。そこでは張留美さん(54)による初個展「第1回張留美展」(主催=美術工房モクレン)が開催中だった。
張さんは、東京朝鮮第3初級学校に32年間、教員として勤めた。2006年には保育資格を取得し、数々の保育所にも勤務した。22年に退職し、現在は専業画家として活動している。これまで教員をしながら、さまざまな展示会に出品しており、2018年には第3初級の新校舎建設のためにチャリティ展示会を開催した。
今展示会には全32作品が並んだ。これまで張さんが手がけた作品に加え、22、23年に仕上げた新作20点が含まれている。風景、学校生活の一コマ、張さんの3人の子どもたち…。見るものを惹きつけ、心あたたまる作品ばかりだ。
張さんは、朝鮮学校児童たちと共に過ごしていると児童たちが「輝く瞬間」があると語る。その一瞬を切りとり、これまでも作品を描いてきた。「運動会」(2019年、第25回極美賞)は、運動会の最後に最高学年の児童たちがトンネルをつくり、その下を下級生たちがくぐるようすを描いた。みんなの笑顔、当日の盛り上がりが伝わってくる。
「ロマンス通り」(1989年)は張さんが朝鮮大学校2年生の頃の作品。朝大が位置する小平市の秋を感じられ、同校を卒業した筆者も懐かしさを感じた。
「挑戦」(2023年、第29回極美審査員特別賞)では、日本を離れ海外で活動している張さんの娘を描いた。チョゴリにパソコン、そして朝鮮の虎。ルーツを堅持し、世界で羽ばたく同胞の気概を感じさせる作品だろう。
張さんが最も力を入れたと語るのは、ひときわ大きなこちらの作品。
「白木蓮」(2023年)だ。朝大では、毎年3月に白木蓮が咲き誇り、卒業式で「목련꽃 필 때(木蓮の花が咲く頃)」が歌われる。張さんは、希望を抱いて朝大を卒業した30数年前の自身の経験と、画家一本で暮らしていこうと2年前に朝鮮学校の教員を辞めたことを重ね合わせ、「新しい出発」の意味を込めてこの作品を描いたという。
この日、ギャラリーを訪れた秦玉美さん(50)は、第3初級に張さんと同じ時期に教員として赴任した。秦さんは、「ウリハッキョ(朝鮮学校)の児童たちを描いた絵に心打たれるものがあった。愛に溢れる作品ばかりだった」と話す。「7歳の頃、朝大生の頃、新人教員の頃に描いた絵もあったが、絵を通して張留美ソンセンニム(先生)の人生を感じることができた」と目を細めた。
40年来の実現
張さんが個人展について初めて考えを抱いたのは中級部3年の頃。当時の美術教員に「いずれ張留美展をしてみたら」と冗談半分で言われたという。その言葉を胸の片隅に抱き続けてきた張さん。「残りの人生で何をしたいか」と自らに問いかけ、出した答えは「個人展をやってみたい」だった。張さんの先輩たちも「自分の希望を叶えてみれば」と背中を押してくれた。約40年前、美術教員からかけられた一言が結実したことになる。
今展示会には360人を超える人びとが足を運んだ。「多くが同胞や付き合いのある日本の方たちだったが、これからは自分の作品を評価し、魅力を感じて見に来てくれる人も増やしていきたい」と張さんは決意を語る。また、同じ夢を抱く後輩たちに「仕事をしながら絵を描くのではなく、専業画家でも生きていけるんだということを自らの姿を通して伝えていきたい」と言葉に力を込めた。
次回は「クリム展2023」を紹介する。