【イオニュースPICK UP】群馬の朝鮮人追悼碑近く撤去か/市民ら存続求め集会
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県撤去に乗り出す
「…私たちは、かつてわが国が朝鮮人に対し、多大の損害と苦痛を与えた過去の事実を深く記憶にとどめ、心から反省し、二度と過ちを繰り返さない決意を表明する。過去を忘れることなく、未来を見つめ、新しい相互の理解と友好を深めていきたいと考え、ここに労務動員による朝鮮人犠牲者を心から追悼するためにこの碑を建立する。…」(追悼碑の碑文「追悼碑建立にあたって」より)
日本の植民地時代、県下で群馬鉱山や中島飛行場地下工場、吾妻線工事などに約6000人の朝鮮人労働者が動員された。強制連行され過酷な環境下で命を落とした朝鮮人労働者を追悼し、守る会の前身団体は2004年に「記憶 反省 そして友好」の追悼碑を建立した。その追悼碑が今、歴史否定の現在地となっている。12年に排外主義団体による「碑文が反日的」だとする抗議が県に殺到して以降、県は14年に守る会の碑の設置許可更新申請を不許可に。守る会は県の対応が不当だとし、同年に訴訟を起こした。守る会は18年の1審判決では勝訴したものの、東京高裁では一転敗訴。22年6月に最高裁で上告が棄却され、敗訴となった。
守る会と市民たちは、その後も碑の存続のためのスタンディングやフィールドワーク、そして法的な取り組みを続けてきた。守る会は昨年5月、碑の設置・管理許可申請を新たに行うも、6月に不許可となる。10月11日には、その不許可処分に対する取り消しと、4月27日付で県から送られてきた碑の撤去及び原状回復命令の取り消しを求め新たに裁判闘争を始めた。
その後、10月25日付で県は守る会宛てに、12月28日までに碑を撤去しない場合は行政代執行(法律上公益を著しく侵害している建造物に対して行政が撤去に着手すること)を実施するという「戒告書」を送付。さらに、追悼碑周辺で木が伐採されるなど代執行に向けた不穏な動きを市民らが感じていた中、1月19日付の地元紙の記事により行政代執行による碑の撤去方針を県が固めたということが明らかになった。守る会は1月5日に「戒告書」に対する取消し訴訟の提起と代執行の執行停止の申立てを行っていた。
歴史修正主義の暴挙
守る会の川口正昭共同代表は、集会冒頭のあいさつで追悼碑をめぐる喫緊の状況を伝えながら、「対応を急がなければならない」と危機感をあらわにした。そのうえで、「政治が歴史を書き換えようとする行為は、決して許されるものではない。追悼碑を守る闘いは、そのような動きを認めるか否かを問う場にもなる」とし、碑の存続のために共に行動していくことを強く呼びかけた。
藤井保仁事務局長は、行政代執行を実施する旨の文書が1月22日にも届くと話し、24日には守る会と弁護団の合同会議で碑の存続をかけた最終的な方針を決めることを報告。藤井さんは、「行政代執行ができるのは、公益を著しく害すると判断された場合であり、今回の追悼碑は公園の一角にたたずんでおり、公園利用者に一切支障をきたしていない」とし、「追悼碑は、県議会が認めて建立されたもの。仮に行政代執行で撤去することになれば、暴挙として歴史に名が刻まれることになる」と語気を強めた。
続いて、弁護団の谷田良弁護士が報告した。昨23年10月11日に新たに提訴した第1回弁論が2月7日に行われる。弁護団では、裁判期間に碑が撤去されないよう、10月の提訴時に碑の撤去および原状回復命令の効力を停止させるための執行停止の申立てを裁判所に提出し、1月5日にも同様の申し立てをしているため、今は裁判所にその判断を急ぐよう促していると報告した。
集会では、藤井正希・群馬大学社会情報学部准教授が「検証・群馬の朝鮮人追悼碑裁判~歴史修正主義とは?~」と題し講演を行った。藤井准教授は、「村山談話と日朝平壌宣言という政府見解に沿った碑文の内容を『反日的』と言い、撤去を求めることはまったくの筋違いだ」と撤去を求めている排外主義団体の主張とそれを追認する県行政を一蹴。「県の対応はまさに歴史修正主義に手を貸す暴挙ではないか」と指弾した。
集会後に、参加者らは県庁前に移動し「朝鮮人追悼碑を撤去するな」などのシュプレヒコールを叫んだ。
山梨から参加した高橋夏未さん(大学3年生)は実際に碑を訪れた際、こんなにも静かな所に碑があるのに撤去しなければならないのは、「政治的な判断」だという問題意識を抱いたという。現在は追悼碑が建てられた経緯や強制連行の実態について大学で研究している高橋さんは、「日本人の責任として加害の歴史と向き合うべき」だとし、「追悼碑撤去は日本社会の排外主義をさらに後押しする恐れがある」と危機感をあらわにした。
女性同盟中北支部の金正愛委員長(63)は、「本当に撤去されるという実感から怒りが込み上げてきた」と憤る。金さんは碑が建立された当初から関わり、東京で裁判も傍聴した。「私たちの歴史を伝える教養としての碑が撤去される影響はきわめて大きい。碑を守るためにも、同胞たちにより知らせていかなければいけない」と語りながら、「連帯する日本の方たちと共にさらに心を強く持って頑張りたい」と言葉に力を込めた。
(文・写真:康哲誠)
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