【特集】私が本を出した理由
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世の中にあふれる数多くの本。いつだって本は、私たちが生きるうえでの道しるべになってくれる。人生を豊かにしてくれる。そんな本を出した人に迫る。自叙伝、詩集、歴史書…文章を書くことを生業にしていない人が書いた本とそのいきさつについて、本を世に送り出すうえでの立役者・編集者の仕事について、そして本の作り方まで。次はあなたも、本を出してみたくなるかも。
私が書いた本
歴史本、自叙伝、そして詩に至るまで、本を出した人の数だけそれぞれのストーリーがあります。執筆を始めた理由、出版までの経緯、出版後の反響などについて著者に話を聞きました。
①在日コリアンの視点を基盤に
劉永昇さん
りゅう・えいしょう●1963年名古屋市生まれ。在日コリアン3世。早稲田大学卒。雑誌編集者、フリーランスを経て95年、風媒社に入社。98年から編集長を務める。共著に『日本を滅ぼす原発大災害』『本の虫 二人抄』。新聞のコラム執筆も多数。
『関東大震災 朝鮮人虐殺を読む 流言蜚語が現実を覆うとき』
著:劉永昇/亜紀書房/2023年/1980円(税込)
愛知県名古屋市に拠点を置く出版社の風媒社で「看板」ともいえる編集長を務めるのは、在日コリアン3世の劉永昇さん(61)だ。劉さんは関東大震災から100年を迎えた昨年9月、『関東大震災 朝鮮人虐殺を読む 流言蜚語が現実を覆うとき』を上梓した。
関東大震災時の朝鮮人虐殺について執筆を始めたのは、自ら有志たちと立ち上げた同人誌『追伸』に「在日コリアンのルーツを近代の初めから辿り直したい」という思いで始めた執筆がきっかけとなった。「明治」以降、日本が朝鮮半島に干渉を始めた時期まで歴史をさかのぼり紐解いていったところ、1923年9月1日に行きついた。
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②皆で作った「私の普遍的な物語」
張弘順さん
ちゃん・ほんすん●1942年生まれ。小中高と日本学校に通う。朝鮮大学校理学部(当時)化学科卒業後、65~2003年まで茨城朝鮮初中高級学校教員、声楽部顧問。教員を定年退職後、在日本朝鮮民主女性同盟茨城県本部委員長。現在女性同盟本部顧問、ハングル講座講師などを務める。
『私の名前はチャンホンスン』
著:張弘順/「私の名前はチャンホンスン」刊行委員会発行/2021年/頒価1000円
はじまりは約5年前。娘の助言をきっかけに自身の経歴をまとめはじめた。日付だけ記すつもりが、80年の自分史をつらつらと綴っていた。自分だけの特別な物語も添えて。
朝鮮学校で38年間教員を務めた張弘順さん(82)。小中高と日本学校で学ぶなか、高校2年の夏、家を訪ねてきた朝鮮高校の生徒らと出会い、自身のルーツや民族名について初めて知ることになった。
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③渡来文化を後世に
権鍾伍さん
こん・じょんお●1953年大阪府生まれ。1980年に同志社大学を卒業後、太平出版などの出版社勤務を経て、現在は日本全国各所の史跡巡りを行っている。
『渡来人伝 火の山 榛名をゆく』
著:権鍾伍/彩流社/2020年/2420円(税込)
2020年12月に「渡来人伝―火の山 榛名をゆく」を上梓した権鍾伍さん(70)。史跡めぐりが趣味の著者が群馬県の古墳や史跡を辿りながら、渡来人(外国から渡来して、日本に住んでいた人。4~7世紀頃に朝鮮や中国から渡ってきた人びとを指す)の存在、歴史、文化などを紐解いていく一冊だ。
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④私は日本人、妻は朝鮮人、子どもは朝鮮学校
安藤清史さん
あんどう・きよし●1950年、北海道虻田郡洞爺村(現洞爺湖町)生まれ。高校まで北海道で暮らし、大学受験で本州に渡る。大学闘争や三里塚闘争に参加し、山谷でアイヌの青年と出会い、死まで行動を共にする。その後、在日朝鮮人の妻と子どもを守るため埼玉県川口市を中心に地域活動を展開。文部科学省前の金曜行動にも参加。
『「ハルモニ、歌ってあげるね」―アイヌ、コリアンと共に生きる』
著:安藤清史/彩流社/2021年/2200円(税込)
大学闘争や三里塚闘争、山谷での労働運動などに身を投じ、在日朝鮮人女性と結婚。生まれた3人の子どもを朝鮮学校に送り、地域運動や朝鮮学校支援活動を行う―。そんな波乱万丈な人生を送ってきた安藤清史さん(73)が2021年に彩流社から出した本のタイトルは、『「ハルモニ、歌ってあげるね」―アイヌ、コリアンと共に生きる』。本人が歩んできた道のりをつづった「自伝」ともいえる一冊だ。
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⑤日常の実存を詩にする
姜湖宙さん
かん・ほじゅ●1996年ソウル生まれ。6歳の頃に渡日。現在は京都で暮らしながら、創作活動をしている。年に1、2回は展示会に絵を出品している。2023年3月に出た初詩集が、第25回小野十三郎賞と第29回中原中也賞の最終選考に残る。
『湖へ』
著:姜湖宙/書肆ブン/2023年/2200円(税込)
日常生活において欠かせないことを誰もが持っているはずだ。姜湖宙さん(27)にとってそれは、「何かを書く/描くこと」だった。
6歳で韓国から日本へ渡ってきたニューカマーである姜さん。19歳の頃から絵や散文を日常的にかいていた。しかし、体調を崩してしまい、これまで通りの創作活動ができなくなってしまった。「何かを書いてないと落ち着かない」という理由で、一昨年10月ごろからノートにぽつりぽつりと詩を書き留めたのが「詩人」としての始まりだった。
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編集者に聞きました 本を作るということ
三一書房、高文研、ころからなど在日朝鮮人が書いた本や朝鮮・韓国に関連するテーマの本を世に送り出している編集者に、本を編集する意義ややりがい、編集した本に対する思いや、著者とのつながりなどについて聞きました。
①在日朝鮮人のオーラルヒストリーを
高秀美さん・三一書房
三一書房で在日朝鮮人に関する書籍を数多く編集してきた高秀美さん(70)。朝鮮新報社が発行する「朝鮮時報」の編集部、聞き書きなどこれまで編集にかかわる仕事の経歴は長い。
高さん自身が在日であることから作家の黄英治さんや歴史学者の姜徳相さんなどさまざまな執筆者とつながり、在日朝鮮人関係の書籍出版に多く携わってきた。ジャーナリストの中村一成さんが京都のウトロ地区で長年続けてきた取材を基に執筆した『ウトロ ここで生き、ここで死ぬ』など、かかわった本は数多い。「本を読むことで、人の立場に立って物事を捉える想像力と、社会を複合的に見る感性を鍛えられた」と語る。
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②加害の歴史問い続ける「偏」集者
真鍋かおるさん・高文研
高文研編集部の真鍋かおるさん(59)が手がけた書籍のテーマは、そのほとんどが日本の侵略と加害責任の追及、朝鮮をはじめとする被植民地諸国の歴史など、在日朝鮮人と切っても切れない問題だ。
「編集者というよりは、『偏』集者」と語る真鍋さんには、貫いてきた信念がある。
中学生の頃、担任から渡された一冊の本『中国の旅』(本多勝一著、朝日新聞出版、1973)。1945年8月までの約15年間、日本帝国陸軍が中国で行った非人道的行為を告発する被害者の語りに衝撃を受けた。「自分が生まれる少し前、父より少し上の世代の人の話。もし同じように戦争が起きたら自分もやりかねない、同調圧力の中で自分だけ『NO』とは言えないと思った。それが一番怖かった」。
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③「息できる社会」のために
木瀬貴吉さん・ころから
東京都北区にある出版社「ころから」の代表を務める木瀬貴吉さん(56)。
関東大震災朝鮮人虐殺が起こった1923年9月の東京をリアルに再現した『九月、東京の路上で』など排外主義の危険性を訴える本のほか、民族差別や性差別などさまざまな社会問題にフォーカスした本、『離島の本屋ふたたび』といったユニークな本を精力的に出版している。昨年、創立10周年を迎え、エッジのきいた本を出す小規模出版社として存在感を放っている。
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④編集者冥利に尽きる、著者との出会い
市川はるみさん・フリー
映画雑誌の編集などを経て、フリーランスのライター、編集者として活動する市川はるみさん。
市川さんの仕事としてもっともよく知られているのは、平凡社が出版するシリーズ「中学生の質問箱」だろう。「中学生の素朴な疑問から、知っているようだけどよくわからない、そんなテーマについて根っこからやわらかく考える。複雑な社会を生きていくために、子どもと大人の『疑問に思う』『知る』『考える』をバックアップする」という趣旨で、今年2月までに20冊が発行されている。『在日朝鮮人ってどんなひと?』『国ってなんだろう?』『「ハーフ」ってなんだろう?』『「慰安婦」問題ってなんだろう?』…市川さんが手がけた本のうちの一部だ。
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本の出しかた教えます
「本を出してみたいけど、どうすればいいかわからない」とお悩みの人に。自費出版を例に、本が出版されるまでの流れを説明します。
記事全文は月刊イオ3月号本誌をご覧ください。
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