【イオニュースPICK UP】無年金問題、早期の解決をー社会保障審議会あてに要望書提出
広告
在日外国人無年金問題解決へ向けて8月1日、「年金制度の国籍条項を完全撤廃させる全国連絡会」(以下、連絡会)ら4団体が連名で厚生労働省に要望書を提出した。要望書は年金制度改正を議論する社会保障審議会の年金部会宛てとなっている。
この日、連絡会代表の李幸宏さん(64)ら無年金当事者と支援者が東京都千代田区の参議院議員会館を訪れ、厚労省の担当者に要望書を手渡した。立憲民主党の打越さく良参議院議員が同席した。
李さんらは、日本の難民条約批准によって1982年、国民年金法の国籍条項は形式的には削除されたが、無年金が生じないために必要な経過措置を欠いたため、多くの外国人が無年金を余儀なくされ、そのほとんどが旧植民地出身者である在日朝鮮人だと指摘。負担と権利の公平さを目標に、年金のあり方を審議し答申を出している社会保障審議会が在日外国人無年金問題を取り上げ、政府に対して早期の解決を提言するよう求めた。具体的には、①1962年1月1日以前に生まれた在日外国人の障がい者に対して障害基礎年金を支給すること、②1926年4月1日以前に生まれた在日外国人の高齢者に対して老齢福祉年金を支給すること、③上記①②が年金制度内で対応できないならば、年金制度外で同等の額の何らかの給付制度をつくること、の3点を政府答申に加えるよう要望した。厚労省の担当者は、「持ち帰って年金局内で検討する」とした。
要望書提出後、記者会見が行われた。
福岡県出身の在日朝鮮人3世である李幸宏さんは2歳のころにポリオに感染し、その後遺症のため車いすで生活している。李さんによると、無年金当事者が社会保障審議会の年金部会に要望書を出すのは今回が初めて。在日外国人の無年金問題は1998年以降、審議会では一切議論されていない。年内に開催される次回の年金部会でこの問題を審議事項に含めてほしいというのが当事者側の要望だ。
在日外国人の無年金問題は1959年の国民年金法の制定にさかのぼる。当時は加入者を日本国籍者に限る「国籍要件」があった。その後、日本が難民条約を批准したことにともない、国籍条項は82年に撤廃。在日外国人の国民年金への加入が義務化された。しかし、障害基礎年金に関していうと、国籍条項撤廃の時点で20歳以上だった障害者らが受給の対象外となった。国民年金に未加入だったため障害基礎年金を受け取れない障害者を救済する「特定障害者給付金支給法」が2005年に施行されたが、在日外国人は救済対象とならず。同法の附則第2条には、「日本国籍を有していなかったため障害基礎年金の受給権を有していない障害者その他の障害を支給事由とする年金たる給付を受けられない特定障害者以外の障害者に対する福祉的措置については、国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情を踏まえ、障害者の福祉に関する施策との整合性等に十分留意しつつ、今後検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする」とある。しかし何の措置も講じられないまま約20年が経過した。
これまで無年金当事者とその支援者らは厚労省への陳情、裁判所への提訴、外務省、ジュネーブの国連人権条約機関への訴え、当事者が暮らす自治体への要請などを積み重ねてきたが、いまだ解決にいたっていない。
今年5月30日の参院厚生労働委員会では、今回の要望書提出に同席した打越議員が質疑に立ち、武見敬三厚生労働大臣に在日外国人無年金者の救済を求めた。しかし武見大臣は、「特別給付金支給法の検討規定も踏まえて、慎重な検討が必要であると考えている」と従来の答弁を繰り返した。
「慎重な検討を何十年続けているのか。政府がしっかりと決断しなくてはいけないことにもかかわらず、当事者が苦しいたたかいを強いられている」。要望の場に同席した打越議員は国の姿勢に疑問を投げかけた。
「困っている人たちのためにもきちんと対応してほしい」「私の妻は年金をもらえていない。何とかしてほしい」「生活ができず、生活保護を受給しながら暮らす当事者も相当いる。このまま問題が放置されるのは腹が立つ思いだ」。要望の場で発言した当事者たちが問題解決の切実さを訴えた。
問題をこれ以上放置することは許されない。早急な解決が求められる。(文・写真:李相英)