【イオニュース PICK UP】朝鮮学校のこともっと知って/埼玉初中で学校公開、160人集まる
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地域の日本人市民らを対象とした埼玉朝鮮初中級学校(さいたま市、鄭勇銖校長)の学校公開が10月12日に行われ、同校を支援している団体のメンバー、日本人市民、大学生、朝鮮学校関係者ら総勢160人が参加した。
埼玉朝鮮初中級学校(以下、埼玉初中)が主催した今回の学校公開イベントには、共催団体として「外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉(埼玉ネット)」「誰もが共に生きる埼玉県を目指し、埼玉朝鮮学校への補助金支給を求める有志の会」「朝鮮学校とともに歩み、私たち・우리の問題として補助金停止を考えるプロジェクト(ウリ・プロ)」が名を連ねた。
同校の対外的な学校公開イベントは昨年から始まった。今年は①日本人市民に朝鮮学校で実際に行われている授業を学校に直接足を運び、見てもらう、②朝鮮学校関係者と日本人が交流する場を作る、③朝鮮学校の存在意義などを知ってもらうための学習の場にするという目的を掲げた。
埼玉朝鮮学園の金範重理事(50)は「今回の学校公開を通じて、朝鮮学校で行われている民族教育に対して多くの日本人市民の理解を得て、朝鮮学校に対する埼玉県からの補助金給付の復活を求めるために私たちと一緒に行政と闘う仲間を増やしていきたい」と語った。
自分のルーツを肯定できる社会に
午前中の第1部では授業見学が行われた。来校者は10~20組のグループに分かれ、初級部1年から中級部3年クラスまで順に見学。参観した授業は初級部の国語(朝鮮語)、中級部の音楽、英語など。中級部3年生の生徒らが案内役を務め、見学者を教室へ誘導したり、校内の各施設や生徒たちが作ったポスター・展示物なども紹介しながら校内を案内した。見学者たちは児童・生徒たちが一生懸命授業を受ける姿に釘付けになっていた。
第2部は体育館でミニシンポジウム「『日本人』の私と朝鮮学校」が行われた。シンポには今年6月に結成された「ウリ・プロ」のメンバーが登壇。朝鮮学校や在日朝鮮人との出会いについて、日本人の立場から語った。ウリ・プロのメンバーは20代、30代の日本人女性8人。結成のきっかけは埼玉初中に対する支援活動の1つである「埼愛キムチ」(キムチ販売)のボランティアにメンバーらが参加したことだったという。その後、金範重理事から、既存の支援団体とは別でサポーターズクラブ的な団体を立ち上げ、朝鮮学校の支援と補助金支給再開のために一緒に活動しないかと声をかけられ、ウリ・プロを発足させた。
パネラーの金澤千晶さんは、在日朝鮮人の無年金障がい者をテーマにした記録映画『オールドロングステイ』(2020年、飯山由貴監督)を見て、ある年齢以上の外国籍の障がい者に対しては障害年金が支給されないという理不尽な差別に対して2000年3月に聴覚障害などがある当事者の在日朝鮮人7人が京都地方裁判所で裁判を起こしたことを知ったという。「このようなことは、障がい者でありながら在日朝鮮人というマイノリティの中のマイノリティとして生きている人たちに対する明らかな人権侵害、差別だ。在日朝鮮人が日本社会で差別を受けているという事実が私に重くのしかかってきた。在日朝鮮人差別が日本社会で起きていることに対してこれまで疑問に思うことがなかったが、この差別が私たち日本人の問題なのではないかと考えるようになってから、何か行動を起こしていきたいという思いで『埼愛キムチ』のボランティアに参加しているし、今日この場に立っている」(金澤さん)。
パネラ―のAさんは、大学入学後すぐに在日朝鮮人の友人の家に招かれた時の話をした。「在日朝鮮人の友達から、『自分のルーツは朝鮮にあり、その事実を外で話してはいけないと家族から言われて育った』という話を聞いて、どう反応すればいいか分からず、あっさりと聞き流してしまった。もしあの時、もっと在日朝鮮人に対する理解があればその友達に対して何か協力できることがあったかもしれない」。Aさんはまた、朝鮮学校に対する補助金を停止するという行政の行為が日本社会での在日朝鮮人差別を助長しているということに強い憤りを感じるとしながら、「自分らしく生きることは私にとって重要なことであるように、誰もが自分のルーツを肯定できる社会にしていきたい。私はこのような思いを持ちながら、在日朝鮮人とともに何かできることがないかと思い、『埼愛キムチ』のボランティアに参加している。今日のシンポジウムのように、差別の対象となっている当事者以外にも在日朝鮮人に対する差別の問題に関心を持ち、それについて話すことはとても意味があると思う」と語った。
パネラーのBさんは「朝鮮学校と出会った」という言葉がどれだけ自分にとって重い意味だったか気づいたという。地元が茨城県水戸市のBさんは、自分が通った高校が茨城朝鮮初中高級学校の近くにあったという事実を地元を離れてから初めて気づいたことがショックだったという。Bさんは大学時代に文化人類学を専攻し、マジョリティ、マイノリティに関係なく多様な生き方をしている人が多く存在する社会の中で自分はどのように他者と関わっていくべきかということを、在日朝鮮人と日本人によって構成されていたコミュニティをテーマに研究。この研究のためのフィールドワーク先を、自身もボランティアとして参加していた埼愛キムチ頒布会に定めた。
Bさんは「日本で生まれ育った日本人の私と、大日本帝国(当時)による植民地支配期に強制労働などによって日本に渡らざるをえなかった在日朝鮮人1世の子孫である2世、3世との間に民族的なバックグラウンドの差異はあるが、そのバックグラウンドは私が本来、一人の人間として正面から向き合い尊重しなくてはいけないものであり、朝鮮学校との出会いは日本人にとって特別なものであってはならないと感じた。私たちが在日朝鮮人や朝鮮学校について知らずにいるのは、私たちがこれまで在日朝鮮人について真っ向から向き合ってこなかったからだ」と思いを明かした。
「朝鮮学校に補助金給付を」
第3部では同校児童・生徒たちによる文化公演が行われた。続く第4部では焼肉交流会が行われ、参加者らは授業見学の感想やミニシンポジウムでの感想などを和気あいあいと分かち合った。
埼玉の朝鮮学校に初めて足を運んだという国府田俊輔さん(44)は、「自分の民族に誇りを持てる民族教育という素晴らしい教育が朝鮮学校で行われているということを知った。このような教育を行っている朝鮮学校に埼玉県は補助金を必ず給付すべきだ」とこの日の感想を話した。国府田さんはまた、「マスメディアによる捻じ曲げられた報道を通じて朝鮮学校が反日教育を行っているなどの悪いイメージが拡散される中で、学校に実際に足を運び、自分の目で子どもたちの姿を見て、触れ合ってみることが朝鮮学校に対する理解をもっと広げる一歩になる」と話した。
「埼玉ネット」のメンバー・金子彰さん(67)は、「日本政府と自治体は補助金を朝鮮学校に支給しない理由を『政治的な問題』としているが、拉致問題などの政治の問題と子どもたちの学ぶ権利の問題は完全に切り離して考えなければならない。県が行っている朝鮮学校差別は人権に関わる深刻な問題であり、国連から勧告が立て続けに出されているにもかかわらず公的な機関が官制ヘイトのようなことを続けているのは恥ずかしいことだ」と行政の対応を批判した。
文、写真:金盛國