vol.2 在日クルド人に対するヘイト
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安田浩一(ノンフィクションライター)
Q1:在日クルド人って誰のこと?
A:「クルド」とは国の名称ではなく、民族名です。「クルディスタン」(クルド人の土地)と呼ばれるトルコ、イラン、イラクなどにまたがった山岳地帯に居住し、独自の言語と文化を持っています。オスマン帝国時代から同地域で生活してきた、いわゆる先住民族ですが、オスマン帝国崩壊後、「クルディスタン」は周辺国(トルコ、イラン、イラクなど)に分割されてしまいました。その結果、3000万人ともいわれるクルド人は「国を持たない最大の民族」と呼ばれるようになりました。それぞれの国で差別を受けたことにより、難民となって「クルディスタン」を離れた人も少なくありません。日本にも約3000人のクルド人が、主に埼玉県南部(川口市、蕨市など)で暮らしています。その多くがトルコ国籍です。トルコ政府は長きにわたって、トルコ人とは言語や文化の違うクルド人に対し、差別政策を続けてきました。そうした差別や弾圧から逃れてきた人びとが日本で生活しているのです。
Q2:在日クルド人に対するヘイトの現状は?
A:近年、クルド人ヘイトともいうべき、醜悪な差別が問題となっています。ネット上では「クルド人が治安を悪化させている」「テロを企てている」といったデマが飛び交い、「出ていけ」「殺せ」といった殺戮を示唆するようなヘイトスピーチも頻繁に書き込まれています。最近では「自警団」「パトロール隊」を名乗る者たちが、川口市などで、歩いているだけのクルド人を恫喝するなどの行為も見られるようになりました。クルド人排斥を訴えるヘイトデモも繰り返されています。また、クルド料理店やクルド人団体に対するイタズラ電話(「日本から出ていけ」を連呼するなど)、盗撮(クルド人の子どもなどを無断撮影し、ネット上に投稿する)といった犯罪行為も深刻化しています。一方、これに対し、多くの市民や、反差別を訴える人びとが抗議活動で対抗しています。地元の弁護士なども立ち上がり、昨年11月にはヘイトデモの主催者に対し、「デモ禁止」の仮処分を決定しました。しかし、ネット上や路上でのヘイトスピーチがなくなったわけではありません。
Q3:クルド人ヘイトはなぜ生まれたの?
A:クルド人ヘイトが激しくなったのは一昨年5月。ちょうど「入管法改悪」が国会で議論されている時です。難民として注目を集めたクルド人に対し、日本社会の一部がヘイトの矛先を向けました。在日クルド人は1990年代初頭から日本で生活していますが、それまでは激しいヘイトの対象とはなっていませんでした。つまり、差別者たちは、まるで差別を楽しむかのように「新しい敵」を見つけたのです。実際、クルド人排斥のヘイトデモに参加している者たちは、以前から在日コリアン、中国人などの排斥を訴えています。差別扇動者の顔ぶれは変わっていません。だからこそ、デマを流し、差別を煽り、犯罪行為に走るといったヘイトの構図と流れも、これまで問題とされてきた外国人差別とまったく同じものなのです。
こうした差別を断ち切るための政策、法整備を一刻も早く実現させるべきです。関東大震災時の朝鮮人虐殺のような蛮行が起きてからでは遅いのです。